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同一労働同一賃金が開く“パンドラの箱”――派遣業界に突き付けられる退職金問題人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」(1/5 ページ)

» 2019年12月25日 05時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

 正社員と非正社員の「同一労働同一賃金」を求めるパートタイム・有期雇用労働法の施行は2020年の4月1日。中小企業は2021年の4月施行だが、同じ非正規の派遣社員の同一労働同一賃金を規定した「改正派遣労働者法」は企業規模に関係なく2020年の4月1日の施行だ。じつはこの法律は派遣会社の存続を左右しかねない重大な内容を含んでいて、派遣社員を受け入れる派遣先企業にも大きな影響を与える可能性がある。

photo 「改正派遣労働者法」は企業規模に関係なく2020年の4月1日の施行で、派遣会社の存続を左右しかねない重大な内容を含んでいる(写真提供:ゲッティイメージズ)

 本来、派遣社員の同一労働同一賃金は、実際に働いている派遣先の正社員と比較して同じ働き方であれば同一の処遇、違いがあれば違いに応じて支払う均等・均衡待遇が原則だ。これを「派遣先均等・均衡方式」と呼ぶ。

 しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方、逆に中小企業に行った場合は給与が下がるなど、給与が不安定になる。そのため「派遣先均等・均衡方式」を原則としながらも、特例として「労使協定方式」を認めている。これは派遣会社と派遣社員の過半数で組織する労働組合(または過半数代表者)との協定によって、賃金などの処遇を決めるものだ。

 派遣社員は約140万人。派遣会社は全国に事業所数約4万3000、その多くが500人未満の中小事業者とされている。派遣会社は「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」という2つの選択肢からいずれかを選ぶ必要があるが、現実には「派遣先均等・均衡方式」を嫌がる派遣先企業が多いという。なぜなのか。派遣業界の関係者はこう語る。

 「派遣社員と派遣先企業の正社員の均等・均衡待遇を図るために、派遣先は自社の比較対象労働者の昇給・賞与など賃金等の待遇に関する情報を派遣会社に提供する義務がある。しかし、派遣先は基本給や賞与、手当などの情報を提供することによって、問題が生じないかという懸念もある。法的には情報提供を拒むことはできないにしても、『そちらで決めてください、さもないと取引しません』と、両社の力関係でそうなってしまう。だから(『派遣先均等・均衡方式』ではなく)『労使協定方式』を取らざるを得ない派遣会社が多いだろう」

 労使協定方式はあくまで特例で設けられた仕組みにもかかわらず、実際は大多数になる可能性が高い。しかも労使協定方式では、派遣会社の労使が勝手に賃金などを決めることはできない。さまざまな条件が課されるなどハードルが高いのだ。

 労使協定方式には法律上満たすべき要件がある。主なものは以下の2つだ。

  • 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金額として厚生労働省令で定めるものと同等以上であること
  • 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものであること

 労使協定方式であっても、事業者の中には立場の強さを背景に派遣社員の賃金を安く設定して派遣する可能性もある。そのため一般労働者の賃金額と同等以上とし、経験や成果によって昇給することを要件としているのだ。

photo 派遣元事業主は「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」、いずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされている。「労使協定方式」については、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上であることが要件となっている(以下、資料は厚生労働省のWebサイトより)
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