クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

2020年の中国自動車マーケット(後編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2020年01月07日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 米両院は、さらに12月にはウイグル人権法案も上院全会一致と下院407対1の圧倒的多数で可決している。中国政府がウイグル人を弾圧する理由は、彼らがイスラム教徒だからだ。99年からの法輪功の弾圧からも明らかなように、中国共産党は宗教を認めていない。100万人以上のウイグル人を強制収容所に収監する理由を、中国政府は「テロの防止」だと説明する。仮にテロリストが100万人以上も生まれるとしたら、その対象となる政府の異常を疑うべきだろう。

 香港だけならまだしも、ウイグルの問題にまで手を突っ込まれたら、中国政府には落としどころがない。ウイグルの自由を認めれば、中国各地で少数民族問題が勃発して、中国政府は崩壊の危機に陥るだろう。

 それが分かっていながら、そこに踏み込んだ米国は明らかにこれまでと別種の決意をしていると見るほかはない。だから、米国もまた、中国が正しい民主主義に変わるまで手を緩めるとは考えにくい。もちろん米国だってわれわれの目から見て決して完璧ではない。それでも世界の盟主として、米国か中国か二者択一の選択を迫られるとしたら、今の中国は選べない。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

 と、ここまで読むと、今回の米中摩擦が一時的な問題ではなさそうなことがお分かりいただけたと思う。おそらくは中国の統治体制が変容するまで、この経済戦争は終わらないだろう。共産党が何らかの歩み寄りポイントを見つけるか、政権を交代するかだ。最悪の場合は内乱という可能性すら否定できない。そういうことにならないように歴代用意されてきたシャドーキャビネットは、すでに習近平主席自身の手で解体済みだからだ。

 さて、中国の未来は全く分からない。リスクの生起確率すら計算できない不確実性の中で、世界の自動車メーカーはどうなるのだろうか? やはり中国依存度が高いところが危ない。筆頭は欧州だ。これは自動車産業のみならず金融なども含めて中国と蜜月を深めすぎている。

 国内ブランドでは、ホンダと日産がともに中国比重が高い。次いでマツダ。トヨタは中国での販売台数こそ多いが、全体の分母が大きい分、比率として中国は少ないため、影響は相対的に低めだろう。スバルとスズキは事実上中国販売がなく影響も当然ない。

 中国の問題がこれ以上深刻化すればスバルとスズキ以外はみな影響が出るだろう。中国の落ち込み分を他のマーケットでカバーしようとすれば、選択肢は日米欧ということになるが、日本のマーケットが拡大できるとは到底思えない。欧州は中国との経済的結びつきが強く、経済全体に影響が出るだろう。そもそも日本のメーカーには、困ったからといって欧州で売上を積みませるようなメーカーはない。おそらくは、中国の問題が解決するまでは米国市場での拡大を目指すことになるだろう。20年代は自動車メーカーにとって波乱含みの年代になりそうだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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