そういう諸々を考慮しつつ、大原則に立ち返れば、市場経済にとって大事なのは、自由と人権だ。その基礎があってこそ初めて財産権が確立する。自由と人権と財産権があやふやな世界では、市場経済のメカニズムが働かない。
そういう認識が強くあるからこそ、内政干渉であることを熟知しながら、米国は香港の問題に口を差し挟む。英国から香港が返還されるとき、50年間にわたって香港の高度な自治が保障されることは条件だった。ところが中国政府はそれをなし崩しにしようとしている。
すでに、中国本土の会社が香港の会社のほとんどを買収し、支配している。香港のデモを支持したキャセイ航空のスタッフを守ろうとしたCEOは、中国政府の圧力で罷免された。社会主義政権下でゆがめられた資本主義によって高度な自治は骨抜きにされつつある。
香港デモの本来の目的は「犯罪者引き渡し条約」の阻止だ。これまで企業を通じて圧力を掛けてきた中国政府は、いまその矛先を個人に向けさらに厳しく輪を絞り上げようとしている。政府に異を唱える個人を犯罪者として本国へ送還させれば、再教育キャンプへ送り込まれるだろう。先に述べたとおり、こういう人権問題がある限り正しい市場経済が育つことはなく、ひいてはそれが世界の経済をおかしくする。米国にとってこれは他国の問題ではなく世界の市場経済の問題なのだ。
こういう対中国の強硬姿勢は、トランプ大統領がひとりで仕掛けたものではない。主役となっているのは米議会であり、法案成立を主導したのは対中国強硬派で知られる共和党のマルコ・ルビオ上院議員と超党派の議員たちだ。注意すべきは大統領は行政府の人だが、上下両院からなる議会は国民の負託を受けたのみならず、予算の議決権も持っている。つまり中国への制裁は、米国の総意と言ってもいいだろう。
両院は11月に香港人権法案を圧倒的多数で可決し、大統領の署名も済んで正式に法律が成立した。しかもこれから、同様の趣旨の法案を、カナダ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、オーストラリアが審議を始めている。世界が中国制裁に向かいつつある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング