かんぽ事件で揺れる保険業界 復活のカギはLINEの「贈るほけん」にあり古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(3/3 ページ)

» 2020年01月10日 07時20分 公開
[古田拓也ITmedia]
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LINEほけんは、保険マーケットではなく贈答マーケットを狙う

 つまり、この商品は「20年以内に地震が起きるか」に賭ける商品であり、仮に地震によって大規模な被害が生じたとしても、焼け石に水程度の保険金しか降りないという点で、貯金にも劣るともいえるのだ。

 したがって、保険マーケットにおいてこの商品で戦おうとしても、到底加入は期待できないだろう。しかし、この商品のターゲットを保険マーケットではなく、贈答品のマーケットと捉えると話は変わってくる。

 これまでに検討した通り、保険には保険会社の取り分が存在する以上、保険それ自体では期待値がマイナスとなる金融商品だ。しかし、プレゼントとして他者からもらえるとしたら、期待値で割り引いた部分が受け手の効用となるため、少なくともマイナスになることはない。

 一方で、贈る側からしても、プレゼントを保険にしたからといって、特別なマイナスが発生することはない。例えば、3000円程度のプレゼントを贈る場合を考えたときに、それが食品であろうと衣類であろうと、保険であろうと支出する金額は同じとなるのだ。

 このように、保険をプレゼントとして考えると、予算に応じたプレゼント商品を買っている購入者と、無償でリスクに対する保険を享受できる受け手という構造となる。この場合、保険の期待値という考え方はそれほど重要な指標ではなくなるのだ。

 矢野経済研究所によれば、国内ギフトの市場規模は10兆円規模で推移している。その中でも、SNSなどでギフトを送ることができるソーシャルギフト市場の伸びが顕著で、18年には14年対比で14倍の1167億円となった。23年には足元の2倍程度の2492億円へ成長すると見込まれている。

ソーシャルギフト市場規模の予測(矢野経済研究所)

 LINEほけんにおけるプレゼント型保険が狙う市場は、他の保険会社の商品がしのぎを削る保険マーケットではなく、これまで高級食材やタオル類が主流であった、ギフトマーケットである可能性が高い。消費者の中には、タンスの肥やしになりやすい衣類やタオルといった商品よりも、リスクに対して少しでも備えができる保険商品を好むことも考えられる。そこで掘り起こした顧客を、収益性の高い保険に誘導できれば、人口減少下でも販売数の向上が期待できるかもしれない。

 今後、保険会社は人口減少や各種差益の圧縮が求められ、競争が激化していくことが予想される。保険会社には、保険マーケットのみで戦うという発想を捨て、新たな市場でシェアを開拓する精神が今後求められてくるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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