かんぽ事件で揺れる保険業界 復活のカギはLINEの「贈るほけん」にあり古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)

» 2020年01月10日 07時20分 公開
[古田拓也ITmedia]

人口減少と価格競争が激化する日本の保険市場

 保険のように統計に裏付けられた商品の収益を向上させるには、費用削減以外にはスプレッドの上乗せか、販売数を増やすという選択肢が挙げられるだろう。しかし、スプレッドの上乗せは販売数の低下を招く諸刃の剣であり、オンライン保険会社といった低コストの保険会社の台頭もあって、取ることが難しい戦略であるといえる。

 では、販売数を増やせるのかというと、実はこれも厳しい。19年には人口減少が史上最大の約43万人規模となり、出生数も過去最低の90万人を下回る結果となった。そうすると、中長期的に販売数の下方圧力は相当強いといえるだろう。今回の事件で明るみに出た不適切な乗り換えや保険料の二重支払いといった事例の背景には、人口減少社会において、成長を前提としたノルマを達成しなければならない悩みが見え隠れする。

 一方で、保険はInsurtech(インシュアテック,Insurance+Technology)によるイノベーションが期待されている分野でもあり、近年新規参入が盛んになっている。Insurtechでは保険ビジネスを効率化して、必要最低限の商品とすることが論点としてよく挙げられている。しかし、筆者は効率化・ミニマム化それ自体ではなく、それによる保険以外での市場開拓にポテンシャルがあるのではないかと考える。

LINEの「贈るほけん」競合は保険会社ではない?

 保険以外での市場シェア獲得を狙っているとみられるのが、「LINEほけん」だ。同社は「保険をプレゼントする」という消費行動をユーザーに定着させようとしている。この動きは、「贈るほけん 地震のおまもり」や、企業から保険がもらえる「REWARDほけん」といったプレゼント型保険商品のリリースから観測できる。このケースでは、「買ったら損をする商品」という保険本来のデメリットを昇華できるモデルになっているのだ。

LINEの「贈るほけん 地震のおまもり」

 では、「地震のおまもり」の条件を見てみよう。これは、期間中に震度6弱以上の地震によって被害が生じたら、保険金を受け取ることができる保険だ。「1年間の保険料は500円で、保険金額は1万円」となる。

 この条件をみると、批判したくなる方もいるだろう。確かに、簡単にシミュレーションするだけで、保険としてみた商品価値は他保険と比べて明らかに低い。

 例えば、「地震のおまもり」にもし20年間加入できたとして、地震による被害が生じなければどうなるだろうか。「地震のおまもり」に加入していた場合、それまでにかけた1万円の保険料は失われてしまう。一方で、「地震のおまもり」に加入せず、保険料と同じ額だけ貯金をしていれば、20年後には手元に1万円が残ることとなる。21年目に地震で被害を受けると、「地震のおまもり」に加入している場合は1万円を受け取ることができるが、貯金の場合は1万500円が手元にある。そのため、21年以上大地震に見舞われなかった場合、赤字になるわけだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.