なぜマスコミは、企業の倒産を「社会のせい」にしてしまうのかスピン経済の歩き方(5/7 ページ)

» 2020年01月21日 08時05分 公開
[窪田順生ITmedia]

大企業は「強者」、中小企業は「弱者」

 ドラマ『下町ロケット』に出てきた帝国重工と佃製作所が象徴的だが、日本では昔から大企業は強欲な金満主義で、人の頬を札束で叩くような「強者」で、小さな会社はマジメにコツコツ働くがお金がない「弱者」という定番のイメージがある。

 このベタなイメージに引きずられるマスコミは大企業に厳しい。不正が発覚したり経営危機に陥ったりすると「経営者が悪い」と謝罪や辞任を迫る。しかし、小さな会社が同じことをしても「社会が悪い」「政治が悪い」と露骨に甘やかす。なぜこうなるのかというと、マスコミは「弱者の味方」だからだ。

 ジャーナリズムは強きをくじき弱きを助く、が基本だ。だから、権力にはああだこうだと注文をつけて厳しいが、社会的弱者にはどこまで寄り添う。時にこのバイアスが「偏向報道」を生んでしまうわけだが、これはジャーナリズムの存在意義にも大きくかかわるものなので、どうしようもならないのだ。

 こういうイデオロギーが骨の髄まで叩き込まれているマスコミは、中小企業という弱者がバタバタ倒れている現象を見ても、「淘汰」などという言葉を使いたくない。そこで、消費増税、人手不足、後継者不足という要素にフォーカスを当てることで、「社会が悪い」「政治が悪い」という方向へ持っていかざるを得ないのである。

 そのような意味では、「成長できずに国からの支援でかろうじて”延命”している小さな会社があふれている」という日本経済の問題は、マスコミのゆきすぎた「弱者保護」が招いたと言えなくもない。

 「バカも休み休み言え」と鼻で笑う人も多いだろうが、過去を振り返ればあながちそうとも言えない部分もある。大手銀行の統合や観光立国を予言した伝説のアナリスト、デービッド・アトキンソン氏は日本の中小企業が爆発的に増えたのは、63年に「中小企業救済法」と揶揄(やゆ)された「中小企業基本法」が制定されたことが諸悪の根源だと分析している。

 この保護政策に加えて、「小さい企業」のままでいる税制上のメリットなどが整備されたことで、世に中小企業があふれ返る事態になり、日本経済の成長を低迷させてきたというのだ。では、なぜそんなことをしたのかというと、「人口が右肩上がりで増えていた」ことが大きい。戦後のベビーブームを経て、過剰になった労働力の受け皿が必要ということで、国としてもとにかく働く場所を増やさなくてはいけなかったのだ。

 ただ、そこに加えて筆者は時の権力者が、マスコミや世論から叩かれぬように、中小企業という「弱者保護」を進めた側面もあったのではないかと思っている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.