なぜマスコミは、企業の倒産を「社会のせい」にしてしまうのかスピン経済の歩き方(4/7 ページ)

» 2020年01月21日 08時05分 公開
[窪田順生ITmedia]

マスコミは問題の本質をぼやかす

 では、なぜマスコミはこの問題の本質をぼやかすようなミスリードをするのか。「倒産」という概念を世に定着させた東京商工リサーチのようなプロの分析と、それを一般の人たちへお届けするマスコミの話ぶりがなぜ微妙にズレているのか。

 まずひとつは、「競争力のない企業が淘汰されている」という話よりも、「消費税や人手不足のせいで企業がバタバタ倒産している」という話にしたほうがニュースバリューが高いから。もっと分かりやすく言えば、そっちのほうがより多くの人にウケるのだ。

 景気が悪くなったら倒産は増える。景気が悪いのは増税をしたから。増税をしたのは政府なので、倒産もすべて安倍政権が悪い――というような感じで、「こいつが悪い」と断言してくれたほうが聞いている側もスッキリするように、人間は基本的にシンプルな話を好む。

(出所:ゲッティイメージズ)

 そして、人々が好む情報は社会に浸透しやすい。日本の人質司法が国際社会で批判されているなんて耳の痛い話より、レバノンの情勢が不安定になってゴーン氏に批判が集まっているという情報を嬉々として語る人のほうが世の中に圧倒的に多いのが、その証である。

 つまり、マスコミの仕事とは、世の中が喜びそうな話を、分かりやすくシンプルに伝えることなのだ。だから、新聞やテレビの記者たちは新人時代から、小難しい話をいかに単純に書くかを徹底的に叩き込まれているのだ。

 ちなみに、この「小難しい話の単純化」が、ちまたにあふれる「マスコミに取材されたけど、まったく違う話で紹介された」という報道被害トラブルの原因だ。視聴者や読者に対してなるべく物事をシンプルに伝えようとして、複雑な説明や繊細なテーマをかなり荒っぽく「要約」してしまい、結果としてそれが取材を受けた人の「真意」とまるっきり違うものになってしまうのだ。

 このようなマスコミ特有の情報バイアスに加えて、かなり古いステレオタイプの企業イメージを引きずっていることも無関係ではない。それは「中小企業=社会的弱者」というイメージである。

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