報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編)専門家のイロメガネ(3/5 ページ)

» 2020年01月30日 16時00分 公開
[中嶋よしふみITmedia]

ゴーン氏「私は弁護士ではない」

 この話は警察沙汰の犯罪を内々で解決すればよかったという話ではない。ウォールストリートジャーナルは「不思議の国のカルロス・ゴーン」と題した社説で、これは法廷ではなく役員室で扱う問題ではないのか、と指摘している。

 レバノンでの会見後には、安倍総理も「日産の内で片づけて欲しかった」と語ったことが報じられている。

 逮捕された代表取締役のケリー氏も退職金の虚偽記載について、なぜ私とゴーン氏に相談も議論もなく突然の逮捕に至ったのか? この件には関与したのは自身とゴーン氏だけではなく、西川氏もサインをしており、突然2人だけ逮捕されるなど考えられない、と週刊誌のインタビューで語っている(出典「ゴーン氏と私の突然の逮捕は異常です」グレッグ・ケリー前日産自動車代表取締役 独占インタビュー 文芸春秋 7月号 ※現在は文藝春秋digitalで公開)。

 ゴーン氏本人もまた、日経新聞の取材に「私は弁護士ではない」として以下のように答えている。

 日産子会社を通じてブラジルやレバノンに自宅用物件を購入したとの疑惑について質問が及んだ時だった。元会長は「私は弁護士ではない。問題があるのならなぜ(その時に日産の関係者が『会長、それはだめです』と)私に教えてくれなかったのか」と眉をつり上げながら反論していた。

統治不全生んだ「すれ違い」 ゴーン元会長と日産い 日経新聞 2019/1/30

 これは逮捕容疑とは直接的に関係のない質問への回答だが、他の起訴事実について西川氏は問いただすことはしたのか。ゴーン氏やケリー氏の発言が事実であれば、西川氏をはじめ日産の監査役や役員は何をやっていたのか? ということになる。一般の社員が「住宅ローンが残っているから社長には逆らわず穏便にやり過ごそう」と保身を考えることとは全く次元が違う。

 ゴーン氏が日本の司法に不信感を強く抱いた理由は、自身が逮捕されたことだけではなく、有価証券報告書の虚偽記載で自分が逮捕されるなら、なぜ提出の責任者である西川氏も逮捕されないのか? という根本的な疑念によるものだ。

 加えて一緒に逮捕されたのはケリー氏。つまり外国人だけが狙い撃ちされて、最高責任者にもかかわらず日本人の西川氏は逮捕されないことで、不公平な処遇に対する疑念をさらに強めたことは間違いない。

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