クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

水素に未来はあるのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2020年02月03日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

FCVの抱える問題

 さて、そのエネルギーミックスの中にまさに水素もあるわけだが、FCVにはいろいろと欠点がある。だから現状では普及していない。最も根源的な問題は、少なくとも現時点において、水素がそもそも石油やガスの改質によって生産されていることだ。脱化石燃料を目標として、ポスト内燃機関を考え、その候補のひとつがFCVであるとするならば、化石燃料の使用を減らすために「化石燃料由来の水素」に代替することには意味がない。だから水素の製造方法は変わらなくてはならない。

 もう1つは、水素のエネルギー密度を高めるためには超高圧圧縮が必要で、例えばトヨタMIRAIは700気圧まで圧縮した水素を充填(じゅうてん)する。この圧縮に要するエネルギーは膨大だし、そもそも700気圧(約70Mpa)という圧力は気体が可燃性かどうかにかかわらず危ない。参考のために書けば、日本の高圧ガス保安法が定める高圧ガスの基準は概ね1Mpaであり、700気圧はその約70倍だ。「水素は危なくない」と反論する人がいる。もちろん物質そのものが持つ熱量からいえば、ガソリンの方がはるかに危険なのはいうまでもないが、先に書いたように、水素だから危ないという主張ではなく「超高圧気体」だから危ないというだけの話だ。

FCVであるMIRAIで、水素が燃料として使われる流れ

 さて、そういう根深い問題の中でFCVはどこに活躍の機会を見出すのだろうか?

エネルギーミックスのTPO

 化石燃料の改質で水素を作っていてはダメだとすると、他にどういう方法があるのか? 実は、水素は石油精製や製鉄の副産物として大量にできる。こうした水素は副生水素と呼ばれ、純粋に量だけでいえば400万台のクルマを稼働させられるほど大量に発生しているにも関わらず、これまでは無駄に捨てられてきた。

 エネルギー的にはまさに夢のような話だが、こうした副生水素は、燃料電池に使うには純度が低く、精製工程を必要とするという問題がある。従来はこの精製コストがネックで廃棄されてきた。しかしパリ協定の理念からいえば、無駄に捨てられている副生水素をエネルギーとして再利用できるのだとすれば、これは当然なすべきで、循環型社会の正しいあり方だ。量的にも膨大であり技術が確立されれば有用な資源になる。

 この水素が全国に普及した水素スタンドで供給され、多くの乗用車がFCVになって……という未来はいささか楽天的過ぎる。ただし、コンビナートのように大量の副生水素が日々発生するエリアを基点とする物流車両は、FCV化しやすい。何せ外部から調達していた燃料を、内部で廃物利用できるのだ。

 この発展系として、例えばJFEスチールの製鉄所を抱える川崎市が、副生水素の利用促進を進めようと思えば、地域内のバスや公用車などをFCV化することは十分考えられるだろう。副生水素はすぐに全量を使うほどにはFCVが普及しないので、余った水素をエネルギー源として、精製済みの水素を圧縮すれば、すべてが副生水素の再利用の範囲に収まる。

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