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シリーズ600万部突破の大ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』著者・岸見一郎が語る大ヒットの舞台裏――「はじめから世界進出を狙っていた」『嫌われる勇気』著者の仕事術(前編)(1/4 ページ)

» 2020年02月07日 04時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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 国内累計208万部、世界累計485万部の大ヒットを記録している『嫌われる勇気』。続編の『幸せになる勇気』との合計部数は世界で600万部を突破し、21世紀を代表するベストセラーとなっている。

phot 『嫌われる勇気』は世界累計485万部で、『幸せになる勇気』との合計部数は世界で600万部を突破している

 この二部作はフロイト、ユングと並ぶ「心理学の三大巨頭」であるアルフレッド・アドラーの思想を、「哲人と若者の対話編」の形式でまとめたものだ。実は当初から、海外で翻訳版を出版することを視野に入れていたという。共著者の1人で、哲学者の岸見一郎氏に、ヒットの裏側を語ってもらった。

phot 岸見一郎(きしみ・いちろう)哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界をより善いところとするため、国内外で多くの「青年」に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』など

はじめから世界進出を狙っていた

――『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』は翻訳版もあわせて世界累計600万部と、驚異的な部数になりました。しかも、『嫌われる勇気』は2013年12月の発売にも関わらず、現在もずっと売れ続けているロングセラーです。この売れ行きを、著者としてどう見ていますか。

岸見: 発売して6年以上の月日が経(た)っていることは大きいですね。発売当時の小学生が大人になっているわけですから、読者が常に新しいのだと思います。いろいろな悩みに答えている内容なので、読者一人ひとりに深く刺さったのかもしれません。

 この本がこれだけロングセラーになったのは、SNSの力だけではないはずです。『嫌われる勇気』のAmazonのレビューは2500を超えています。

 レビューを書くのは、人に教えたいからでしょう。私も自分の人生を変える衝撃を受けた本を読むと、人にも読んで欲しいと思います。おそらく、多くの方に「誰かに薦めたい」と思っていただいたことが大きかったのではないでしょうか。

――発売前から、売れる手応えはあったのでしょうか。

岸見: 自信はありました、私は。中身に自信があったので、長く支持される本になるだろうと思っていました。共著者の古賀史健さんも、編集者の柿内芳文さんも同じ思いだったのではないでしょうか。

――世界中で読まれることも意識していたのですか。

岸見: 世界進出は、はじめから狙っていました。そのための工夫もしました。まず、固有名詞を挙げていません。哲人の紹介は「古都の外れに住んでいる一風変わった哲学者」です。私が住んでいるのは京都ですが、あくまで古都にしています。

――確かに、日本とは書いていないですね。

岸見: それから、挿絵を見ていただくとわかりますが、哲人の書斎にはPCがありません。PCは10年後に同じような形で存在しているのか、分からないですから。時代とともに古びるようなものは、文章にも挿絵にも入れてありません。だから机の上にあるのは原稿用紙と万年筆です。この2つは今後もたぶん消えないでしょう。

――海外では韓国で140万部も売れています。書籍の売り上げランキングでは51週連続で1位を記録したそうですね。

岸見: 51週連続1位は、建国以来初めてだそうです。日本の書籍が1位を続けることも例がありません。おそらく日本のことを書いている本だとは、とらえられていないのでしょう。ドイツでもよく売れていると聞いています。すでに20数カ国で出版して、今後も増えていく予定です。これだけ広く読まれているのは、日本の国民性とは関係なく、普遍的なことが語られていることに尽きると思います。

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