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シリーズ600万部突破の大ベストセラー『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』著者・岸見一郎が語る大ヒットの舞台裏――「はじめから世界進出を狙っていた」『嫌われる勇気』著者の仕事術(前編)(3/4 ページ)

» 2020年02月07日 04時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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対話によって読者の疑問に答える

――哲人と青年の対話形式にすることを、はじめから考えていたのでしょうか。

 最初は1人称の形式でした。インタビューをまとめた本にするつもりで、2人が私の自宅に通っていました。対話形式に変えたのは、あるとき、「こうやって話をしているのをそのまま本にしよう」という話が出たのがきっかけです。対話の形は当時としては新しかったと思います。この本の最大の特徴です。

 私としても、プラトンはソクラテスを主人公にした対話篇をたくさん書いているので、この形は気に入っています。古来、哲学書には対話篇が多いですから。3人の中で自然と思いが膨らんで、対話篇になりました。

――対話篇にすることで、どんな効果があると考えたのでしょうか。

 対話篇にすることで、読者のあらゆる疑問に答えられます。1人称形式の本であれば、読者は読みながら疑問を多々抱いても著者に問うことはできません。それが対話形式の場合は、読者が疑問を持った瞬間に、その疑問を青年が代弁します。

 青年は想定可能なあらゆる疑問を、これでもかと哲人にぶつけます。哲人も青年の暴言にもひるまずに答えます。本当にこんな人がカウンセリングに来たら、帰ってくれと言いたくなるかもしれませんけどね(笑)。

――青年の発言は、古賀さんと柿内さんの質問がベースになっているのですか。

 2人とも紳士なので言葉遣いは違いますが、想定し得るあらゆる疑問を出し切りました。毎回、6時間から7時間ほど議論していました。

――長時間の議論を、何回重ねたのでしょうか。

 何回だったかは覚えていませんが、1回議論すると次は数カ月後でした。かなり間を空けていました。間を空けるとその間に考えが熟してきて、前に話したときには思ってもみなかったことを思いつきます。その結果、内容はどんどん深まっていきました。 

 アドラー心理学を紹介する体裁ではありますが、3人が自分の問題として話をしたことで、読者が読んだときに共感しやすくなったのだと思います。

 普通の心理学の本であれば「アドラーという人がいて、思想の骨子には全体論と目的論があって」と、大学の講義のようになるでしょう。そうではなくて、問題そのものを一緒に考えていく形になりました。だから読者も自分の問題として読めるのだと思います。

 おそらく、仕事に使えるのではと思って手に取った人もいると思います。そういう人は、うっかり読んでしまったあとで、仕事に役立つこととは全然違う方向で読んだ自分に気付かれるのではないでしょうか(笑)。

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