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» 2020年02月21日 04時00分 公開

人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」:未払い残業代の「時効延長」で悲鳴上げる経営者たち――セブン問題の再発防げるか (1/4)

ベテラン人事ジャーナリストの溝上憲文が、人事に関する「経営者が対応すべき施策」を提言する。今回は4月から施行される未払い残業代の「時効消滅期間」延長について。原稿の2年から5年にまで延びてしまうと、労働者に支払う残業代が莫大な金額になってしまう――。経営者はどんな対策をすべきなのか?

[溝上憲文,ITmedia]

 政府は残業代などの未払い賃金の規制を強化する法案を今国会に提出し、2020年4月に施行される見通しとなった。具体的には労働基準法を改正し、労働者の賃金請求権の時効の消滅期間を現行の2年から原則5年間、当面は3年間に延長するものだ。

 例えば会社が残業代を支払っていないとして労働基準監督署の是正指導を受けた場合、支払われる割増賃金はこれまでは過去2年分に限定されていた。今回の法改正で未払い残業代があれば過去3年前にさかのぼって支払う必要がある。

photo 未払い残業代の「時効延長」によって経営者たちは悲鳴を上げている(写真提供:ゲッティイメージズ)

3年に延長された理由

 なぜ2年から3年に延長することになったのか。これは同じく20年4月に施行される民法の改正が大きく関わっている。改正前の民法では「一般債権の消滅時効は10年、月またはこれより短い期間によって定めた使用人の給料に係る債権については1年の短期消滅時効」とするとしていた。

 だが、民法の特別法である労基法は、1年では労働者の保護に欠け、逆に10年にすると使用者に酷だということで「賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」(労基法115条)と規定した。

 ところが17年に改正された民法では「使用人の給料等に係る短期消滅時効は廃止」した上で「(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき(主観的起算点)、(2)権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(客観的起算点)――債権は消滅」することにした。つまり、労基法の賃金請求権の2年の時効の根拠であった民法の短期消滅時効が廃止された以上、民法に合わせて最低でも5年に変更しなければいけなくなったのだ。

 労基法の取り扱いをどうするのかについてはこの間、政府内で議論されてきた。まず厚労省の有識者による検討会で議論が行われ、続いて公益代表委員、労働者代表委員、使用者代表委員の3者による厚労省の労働政策審議会で19年7月から法改正が審議されてきた。

 検討会の「論点の整理」では「将来にわたり消滅時効期間を2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないか」と提起し、20年4月の民法改正の施行期日を念頭に置きつつ労働政策審議会での検討を促していた。

photo 「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」(厚生労働省のWebサイトより)

 ところが労政審では使用者代表委員と労働者代表委員の意見が真っ向から対立した。労働者代表委員は「労働者保護を目的とする労基法が民法の定める一般的な債権の権利保護の水準を下回ることは許されない。改正民法と同様、5年の消滅時効期間とすべき」(労政審「これまでの主な意見と論点」2019年12月24日)と主張。

photo 出典)労政審「これまでの主な意見と論点」2019年12月24日

 これに対し、使用者代表委員はこう主張した。

 「仮に民法どおりに改正する場合、使用者としては適法に賃金を支払っているつもりであっても、万が一紛争が起きてしまった場合に備えてリスク管理しなければならないという事情もあり、企業実務には非常に大きな影響がある。こうした企業の実態を踏まえ、現行の2年を維持すべき」(同)

photo 出典)労政審「これまでの主な意見と論点」2019年12月24日
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