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未払い残業代の「時効延長」で悲鳴上げる経営者たち――セブン問題の再発防げるか人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」(3/4 ページ)

» 2020年02月21日 04時00分 公開
[溝上憲文ITmedia]

ヤマト未払い残業代230億円 セブンも悪質事案

 08年以降の10年間では毎年100億〜200億円の支払いで推移している。突出しているのが17年度の446億4000万円だ。実はこの年にヤマト運輸のセールスドライバーのサービス残業問題が発覚。ヤマトホールディングスが未払い残業代約230億円を支払い、総額を押し上げている。

 もちろんこの数字は過去2年分の未払い額だ。4月から消滅時効期間が3年に延長されると、仮に18年度の1企業の平均支払額は704万円から1056万円、5年延長だと1760万円に跳ね上がる可能性がある。労働者1人あたりでは3年で15万円、5年で25万円になる。加えて、裁判所に訴えられると倍額の付加金と年利6%の遅延損害金も請求される。

photo ヤマトホールディングスは未払い残業代約230億円を支払った(ヤマトホールディングスのプレスリリースより)

 実は未払い残業代では19年12月10日、セブン−イレブン・ジャパンの「残業代隠し」とも呼ぶべき悪質な事案も明らかになっている。

 セブンで働くアルバイトやパートの従業員の残業代を含む給与の計算と支払いは本部が代行している。ところが残業代に加味されるはずだった「精勤手当」と「職責手当」の計算方法を誤り、長らく支給されていなかった。労基法では割増賃金を計算する際、家族手当や通勤手当、住宅手当などは除外できるが、精勤手当や職責手当などは除外できる手当に入っていない。

 当初セブンは精勤手当と職責手当を除外して割増賃金を支払っていたものの、01年6月に労基署から支払うように是正勧告を受け、それ以降、手当も含めることになった。ところが残業代1時間あたりの割増率の法定最低限は1.25倍以上であるのに、本部は0.25倍で計算し、支給するというミスを続けていた。

 悪質なのは01年に労基署から是正勧告を受けても、それ以前の一部の残業手当も支払わなかった上に、割増率を低く抑えたまま今日まで放置していたことだ。しかも未払いは1970年代の創業時から続いていたという。

 セブンは記録が保存されている12年3月以降の約3万人について、遅延損害金1.1億円を含めて計4.9億円の未払い額を支払うことにしている。12年以前の未払い額についても元アルバイトやパートの申告があれば受け付けると言っている。

 セブンは現行の時効消滅期間の2年をさかのぼって支払うことにしているが、自らのミスである以上、当然だろう。しかし、そのこと以上に残業代の計算式をよく知らない従業員に長年支払わなくても済んでいたという事実である。こうした経緯を考えると、やはり現行の時効消滅期間の2年というのは労働者にとって不公平というしかない。

 さすがにここまで悪質な事案がないことを祈りたいが、今後、企業は時効の3年延長を見越した対策が急務になる。企業の反応もさまざまだ。大手建築関連業の人事担当者は「退職金の時効は5年だが、それに関連する賃金資料もそれに合わせて5年間保存しているはずだ。3年前まで遡及するといっても事務手続き上はそれほど問題にならない。残業時間の割増金をきちんと支払っていればよいこと。大企業や中堅企業を含めて3年や5年になってもしょうがないと思っているところが多いのではないか」と、時効期間延長はやむなしという考えだ。

photo セブンは長期間、アルバイトやパート従業員へ残業代の一部を支払っていなかった(写真提供:ゲッティイメージズ)

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