もし田中課長が、グルメサイトのネット予約を通して同じ店を訪れた場合には、280円の広告費が上乗せになります。広告費は通常、「広告宣伝費等」の勘定科目で計上されますが、ここではあえて分かりやすくこの280円を原価として考えます。すると、先ほどの田中課長が利用したお店の原価は次のようになってしまいます。
<グルメサイト広告を行った場合のお店側の原価>
■広告宣伝費(原価280円)
■お通し300円×1皿=300円(原価60円、原価率20%)
■生ビール190円×1杯=190円(原価163円、原価率85.8%)
■ハイボール290円×1杯=290円(原価60円、原価率20.7%)
■おつまみ490円×3皿=1,470円(原価441円、原価率30%
A:会計合計2250円、原価合計1004円、原価率44.6%
このように大幅な原価率アップ=利益減少となります。
ただここで考えなくてはならないことが1つあります。田中課長がビールをたくさん飲んだ場合にはどうなるでしょうか? 先ほどは2杯目がハイボールでしたが、2杯目もビールだった場合の原価率は38.5%となります。さらに、田中課長が3杯目のビールを頼んだ場合の原価率は42.3%となり、確かに原価率は上がります。しかし、それでもグルメサイト経由で集客を行った場合の44.6%に比べると低い原価率となります。
つまり、お店側としては原価の高い生ビール以外のドリンクや商品をオーダーしてもらうことが重要となります。こうしたお話をすると「お店側は原価の高いビールを飲ませないようにしているのか!?」と思われるかもしれません。しかし、生ビール以外のドリンクに力を入れていくことがお客様の不利益になるとは限りません。
ビール大手5社が発表しているビール類の国内総出荷量(課税済み)は、2018年は前年比2.5%減で14年連続で減少し続けています。これは、ビール以外のドリンクへのニーズが高まっている結果であり、お店側としてはハイボールやサワーといったラインアップを充実させていくことが、お客様のご満足にもつながるといえます。
お店がグルメサイトに支払う広告宣伝費は、直接はお客様の満足にはつながりません。しかし、今回の田中課長のケースのように、「生ビール190円」という店頭看板に魅力を感じて初めて入店し、とてもご満足して帰ってもらえる。さらに、次回は同僚を連れて来店してもらえればお店にとっては大きなプラスとなります。
このように、しっかりとロジックを使って組み立てていくことで、お客様も満足できるだけでなく、お店側もしっかりと利益を残すことが可能なのです。
三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。
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