今の仕事にも不安はある。現在の派遣先では時給が上がる見込みはなく、10年前に勤めていた別の派遣先の会社の当時の時給と変わっていない。そのため自分はキャリアアップができていないという負い目がある。貯金もしているが、都内で1人暮らしのため家賃も高く、数カ月何とか食いつなげるぐらいしかたまらない。
婚活をしていた時期もある。しかし、若さや家政婦のような家事能力を露骨に求める男性たちが多く、結婚は無理だと思った。美緒さんは、氷河期世代の女性は不遇だと常々感じるという。
「新卒で就活していたときは、『女性だから』という理由で面接に呼んでもらえないのは当たり前だった。(当時も)男女雇用機会均等法はあったけど、実質は機能していなかったんです。社会に出てからも会社の事業が傾いたら、辞めさせられる。バブルの世代は、就職も楽だし給料もバンバン上がったというけど、氷河期世代はそんな良い思いもしていない。下の世代は売り手市場だし、働き方改革で職場環境も改善してきている。その上と下に挟まれて苦しい」
美緒さんは、しっかりとした口調で、冷静に自分自身を分析している。理路整然とした受け答えからも、聡明で優秀な女性であることが一目瞭然である。就職先がブラック企業でなく、理不尽なパワハラが無かったら、きっと順調にキャリアを積んで活躍していただろう。しかし現在の美緒さんは、再チャレンジなどとは口が裂けても言えないほどに、「ダメージ」を負っていた。『これから正社員を目指せ』というのは、その傷口に塩を塗るような行為なのだ。
非正規雇用で独り身、これからどうなるか分からない。ぜいたくはしないが、貧困とはいつも隣り合わせ。40歳を過ぎてからは、老後のことも頭をよぎるようになった。
「今は派遣で働いているけど、年を取ったら今みたいにバリバリ働けなくなって、経済的にかつかつだと思うんです。そうなったらどうなるんだろう。年金だけでは無理で、それまでに社会制度が変わらないと、ホームレス化した氷河期世代であふれてしまうかもしれない。私みたいな人って多くいるはず。そういう人間を救済する制度ができないと社会が回らないと思うんですよ。だけど実際は困窮しても、国にはしばらく放置されるんだろうなと思うんですけどね」
美緒さんのどこか冷めた目線が宙を泳ぐ。同じ氷河期世代として、共感できる痛みに、思わず言葉を失ってしまう。
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