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トヨタの役員体制変更の狙いは何か?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2020年03月09日 07時31分 公開
[池田直渡ITmedia]

 これは明らかに意思決定のシステムの改革だ。企業は大きくなると縛りが多くなる。例えば伝言ゲームを思い出してほしい。人づてにメッセージを伝言で回していく間に、いつの間にか内容が変わってしまう。企業の内部でそんなことが起こったら大変だ。だから伝言を文書にしなければならなくなる。聞いてすぐ書く。しかしそれでも間違いは起きるだろう。

 とすればどうするか、5W1Hのマスを用意して埋める形式で書くようにすれば間違いが減る。しかし文章は常に全部のマスが埋まるとは限らない。空欄があったら突き返す方式では機能しない。だが、空欄をノーチェックで回していいのか? そのために5W1Hに加えて、埋まっているマスの数も書き加えるようにする。

 という具合に人の作業のミスをシステムでケアしようと思うと、システムはどんどん重たくなっていく。そしてたった1文のメッセージを伝えるのに、何十人という人が関わり、それらの中でさらに階層的に承認メカニズムが作動するようになれば、もう仕事は何も進まない。ビジネスの速度がどんどん落ちていってしまう。

 だからトヨタはまず役員の人数を削った。11年までの27人を11人に減らした。それは27のチェックポイントの16を廃止して11に減らしたのではなく、チェックポイントを整理統合して、27のチェックを11人に割り振りなおしたのだ。平均すれば1人あたりのチェックポイントは2.45に増えたということになるが、同一人物の中での複数の摺(す)り合わせは簡単にできる。結局、チェックポイントごとに専用の部署があるような体制が速度を削ぐのだ。意思決定メンバーのコンパクト化、それこそがビジネスユニット設置の目的だと考えられる。

 摺り合わせ調整を順列組み合わせの数だと考えると、実感的に分かりやすいかもしれない。取締役の人数の階乗と考えることができるからだ。

 参考までに書いておくと、27の階乗(つまり27×26×25×……と1まで掛けた数)は約11穣。正直単位が分からない。調べたら兆の上は、京(けい)→垓(がい)→抒(じょ)→穣(じょう)だそうで、垓まではかろうじて知っていたがその上は聞いたことも無い。ベタ打ちするとこうなる。

 10,888,869,450,418,352,160,768,000,000(29ケタ)

 対して11の階乗はどうなるか。こちらは4000万ほどで済んでしまう。

 39,916.800(8ケタ)

 実はこの後副社長4人体制を挟んで現在の6人体制となっているのだが、6の階乗はといえば、たった720なのだ。つまり組織のコンパクト化は、とんでもなく意思決定の速度を速める可能性があるのだ。

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