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トヨタの役員体制変更の狙いは何か?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年03月09日 07時31分 公開
[池田直渡ITmedia]

組織の柔軟性改革

 15年4月にはその役員の仕事を時間軸で分解した。副社長は中長期視点で経営の意思決定を行うとともに、そういうビジョンと、現実に執行される実務がちゃんと整合しているかを監督する執行監督の役割を担うようになった。

 流れとしては分割統治というか、織田信長軍の方面司令官制度のように、トップが権限を委譲することで、社長の補佐どころか、経営そのものの責任をどんどん増やされていく。このあたり、副社長級への責任と業務負担の増加は本当に容赦がない。その他の役員は具体的な業務の執行に当たることになる。

 16年4月には非常に大きな変更が行われた。基礎開発、製品開発、生産技術開発……のように機能軸で分かれていたビジネスユニットを、製品軸に分け直した。例えば販売ひとつを取っても、パッソとクラウンでは売り方が違うし売れる地域も違う。

 旧来はそれを「販売のプロだから」と見なされて、本社の大本営で、全国各地の販売作戦を立案させてきた。販売を統括する部署であれば、地域ごとの販売店を平等に扱わなければならない。トヨタの基本思想では、第1はお客様、第2は販売店、メーカーは3番目に過ぎない。そういうスタンスが世に「販売のトヨタ」といわしめてきたのだが、もうそんな粗雑なメッシュでは販売戦略が機能しない。

 例えば都内のように、そこら中に輸入車ディーラーがある地域と、県内に数えるほどしかない地域では、輸入車との競合状態は違う。クラウンならそこで輸入車を意識する必要があるだろうが、パッソだったら関係ない。

 そう考えると、2要素のマトリックスになってくるはずだ。「車種ごと✕地域ごと」。全国一律の考え方で決められるはずもないし、現地現物を見ないで大本営でデータだけ見て決めていてはダメだ。だから担当を各地域に分散させる方向に変わったのだ。トヨタのオペレーションは「値引きで売る」でも「値引きをしない」でもなく、車種と地域ごとに細かくどこまで値引くかを最前線で見極め、つねに最低限の値引きで勝ちを収める戦略だ。その結果、第三四半期決算で利益率をさらに押し上げてきた。決算資料の説明には「諸費用低減の努力」としか理由が書かれていないが、バックグラウンドにはそういう緻密なオペレーションがあっての話なのだ。

 販売だけではない。あらゆるフェイズで、クラウンにはクラウンの、パッソにはパッソの決め方があるはずだ。そして緻密なオペレーションを進めるためには今のラインアップは数が多すぎる。トヨタが発表している車種の削減は緻密なオペレーションでカバーできるところまで、車種を減らしたいという話なのだと思う。

 となると、機能別ではなく製品軸ごとに組織を分け直すべきだ。それこそがカンパニー制へ移行した理由である。そしてそれはトヨタの原則のひとつである現地現物主義への回帰でもあるのだ。全国の傾向にまとめられてしまう前の生のデータ、つまりその地域では何が求められているかを商品企画にフィードバックできる。

 17年にはそれぞれの役割の明確化とともに、さらに人数を削った。減らすことは手段であって目的ではない。意思決定の速度をいかに上げるかが重要であり、その手段が人数の削減なのだ。

 18年には社外から高度な専門性を持つ人材の拡大登用を始めた。CASEへの対応を考えると、社内で純粋培養して幹部を育てるだけでは間に合わない。外部から人材を求めて登用することで、そうした人材を補っていく必要がある。

 また併せて副社長の役割を追加した。従来社長の補佐として経営に参加し、実務の進行を監査していたが、本部長としてこの実務の現場を直接指揮することも求められるようになった。

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