経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長など、経済界の重鎮が相次いで終身雇用の見直しについて言及している。経済界トップがこうした発言を行うのは異例中の異例であり、それだけ企業が置かれた状況が深刻であることを示している。良い意味でも悪い意味でも、終身雇用制度は解体に向けて動き出した。
中西会長は4月、「企業が今後、終身雇用を続けているのは難しい」という趣旨の内容を述べ、雇用のあり方を見直す方針を示した。その後も記者会見などで持論を展開しているので、とっさの発言ではないことが分かる。中西会長に続いて豊田社長も終身雇用の再検討を示唆する発言を行っている。
日本型雇用が制度疲労を起こしていることは多くの人が認識しているが、正社員の雇用は一種の「聖域」とされており、企業トップが安易に言及できる対象ではなかった。かつて小泉政権は構造改革の本丸として正社員の雇用にメスを入れようとしたが、逆にこれがきっかけで構造改革が頓挫したという経緯があり、各政権にとっても触れたくなかった話題と言って良いだろう(構造改革の頓挫は、結果的に大量の非正規社員を生み出し、正社員との格差を作ってしまった)。
それだけに、経済界のリーダーが相次いで終身雇用の見直しに言及したことは注目に値する。彼らが重い口を開いたのは、企業の人件費負担がいよいよ経営を本格的に圧迫し始めており、多くの会社がこれに耐えられなくなってきたからである。
日本企業に勤めるサラリーマンの給料は過去10年、ほとんど上昇していないので、多くの人は企業が人件費をカットしていると考えているかもしれない。だが実態は少々異なる。
日本企業全体の売上高は、過去10年間、ほぼ横ばいで推移してきたが、総人件費は増大する一方だった。社員の平均給与がほとんど上がっていないにもかかわらず総人件費が増えているのは、社員数を増やしているからである。日本は人手不足が深刻といわれているが、それは小売や外食、介護など現場を抱える特定業種の話であって、ホワイトカラーを中心に大量の余剰人員を抱えているのが現実だ。
では企業は意図的に社員数を増やしてきたのかというと、おそらくそうではないだろう。
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