市場環境は時代と共に変化するので、企業が変化に対応するためには、常に新しい人材が必要となる。近年はビジネスモデルの変化が激しいので、新規事業のたびに中途採用で新しい人材を入社させているはずだ。ところが、日本企業は終身雇用が前提なので、スキルが合わなくなった社員をそのまま抱え込むしか選択肢がない。この結果、社員の総数だけが増えていくことになる。
さらに悪いことに日本企業の人事制度は基本的に年功序列であり、若い社員だけが現場の仕事を担うシステムである。このため現場を離れた大量の中高年社員が在籍する一方、現場を回すために常に一定数以上の新卒社員を採用する必要があり、これが社員数の増大に拍車を掛けている。
高度成長期であれば、ビジネスモデルは単純で、同じ業務を繰り返していればよかった。しかも市場は年々拡大していたので、余剰人員はそれほど大きな問題にはならなかった。だが日本経済の成熟化と社会のIT化が同時に進んだことから、いよいよこの問題が企業の経営を揺るがす事態となっている。
多くの人は、終身雇用制度は日本の伝統だと思っているかもしれないが、それは違う。終身雇用制度や元請け・下請けという重層的な産業構造は、戦争遂行のため国家総動員法の施行とほぼ同じタイミングで導入されたものである。戦前の日本社会では転職は当たり前だったし、下請け企業もドライで、条件が悪いとすぐに取引先を変えていた。
集団主義的な戦時体制が、戦後の大量生産にうまくマッチしたことから、戦後になっても制度が継続したというのが実態といって良い(経済学者の野口悠紀雄氏は一連の仕組みについて「1940年体制」と呼んでいる)。
政府は高齢化と公的年金の財政悪化に対応するため、現在65歳までとなっている企業の雇用義務を70歳まで延長し、事実上の生涯雇用制度へのシフトをもくろんでいる。表面的には終身雇用を維持する制度とも言えるが、実質的には逆の作用をもたらす可能性が高い。
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