クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタが始めるブロックチェーンって何だ?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2020年03月23日 07時02分 公開
[池田直渡ITmedia]

ブロックチェーン x AIのリアルな使い方

 例えば、従来、中古車の残存価値は査定で決まっていた。それはつまり人の判断という不確実な要素が入り込むので、重大な事故修理を見落とす可能性もあるし、市場で評価されるオプションパーツなどを正しく査定できない場合もある。実際の現場においては、万が一高く下取ってしまって損をしないように、低めに査定するようなことも行われている。

 ちなみに中古車買取専門店は、中古車オークションで、相場を左右する要素を徹底的にマークするビジネスだ。オプションパーツやグレード、ボディカラーや限定仕様など、落札価格を左右する詳細でリアルタイムな相場情報をしっかり把握することで、精密な査定を出してビジネスにしている。一方でディーラーの下取り査定は、車種、年式、車両状態くらいでざっくり査定される。例えば以前筆者が見た実例では、ランドクルーザーの記念限定モデルを、ディーラーでは標準車としてしか査定できなかったので、買取店との査定額が100万円も差がつく場合があった。

 要するにディーラーは新車を売るプロであり、中古車買取相場の目利きに命がけの専門買取業者とは、相場知識にどうしても差が出ていたのだ。

 しかし、クルマについての信頼できる膨大な台帳データがあれば、クルマの価値はずっとはっきりしてくる。つまり素性がはっきりした分、商取引で騙(だま)したり騙されたりすることが起きにくくなるし、前述の相場に影響する項目が台帳に載っていればあとはAIの仕事である。何しろ日本全国にあるオークション会場のうちトヨタが経営しているものはいくつもある。そこで流通する全車両がいくらで落札されたかを台帳データとセットでAIがリアルタイムで処理すれば、相場の形成要件をほぼ無限に考察できる。もう経験や勘の出る幕はない。プロフェッショナルであっても人間には太刀打ちできない話になるだろう。

 このようにブロックチェーンとAIの活用で査定精度が上がれば、買い取り業者を超える高精度な査定がディーラーでも可能になる。それは当然リセールビジネス枠の拡大につながるし、ユーザーにとっても下取り額が上がれば、新車の購入資金が増える。さらに中古車を買う人もコンディションがはっきりして外れを掴(つか)む心配が大幅に減る。

ブロックチェーンを使ったデータ共有により「愛車への思いが反映される、新たな中古車価値」とトヨタ

 もう一点、ユーザーにとって大きいのは「煩(わず)わしい手続きからの解放」だろう。何かの手続きの度に、住所や名前や電話番号などをいろんな用紙に何度も書かされてうんざりしたり、ID登録のために細々とした個人情報や支払い情報を打ち込んだりといったことは多い。今時はWebブラウザがある程度補助してくれるとはいうものの、そうした情報を構わずブラウザーに覚えさせてしまうのも、セキュリティ上はあまりいいこととも思えない。

 今後ネット決済でクルマにまつわる各種サービスが受けられるようになるにつけ、頻繁に少額決済を行う機会は増えていくだろう。例えばEVの給電や、車載インフォテインメントシステムでのデータのDLなどだ。そういう時に、ブロックチェーン上の個人IDは役に立つだろう。新しいサービスを利用する度に、いちいち利用登録などを行う必要がない。それらの情報は台帳に書かれているので、台帳へのアクセスを認めてやればすぐに利用できる。

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