クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタが始めるブロックチェーンって何だ?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2020年03月23日 07時02分 公開
[池田直渡ITmedia]
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トヨタの姿勢

 トヨタは台帳を大きく2つに分ける。「お客様台帳」と「車両台帳」だ。おそらくお客様台帳には個人のプライバシーに属することを、車両台帳にはオープンに利用すべき内容が記載されるのだろう。これとは別に生産や購買領域において業務プロセス改善のためのブロックチェーン活用もあるが、ひとまずわれわれユーザーと関係のあるところに絞って考えたい。

 台帳に何を記録すればどんなサービスが行えるか? そしてそれはユーザーに不利益がないのかを、トヨタは今模索している。例えば先ほど、立ち寄り先の全記録だって残せると書いた。それを読んで「嫌だな」と思った人は少なくないと思う。筆者も嫌だ。そんな尾行めいたシステムだったら、DCMをゴミ箱に放り込んでしまいたくなるのが人情である。

 しかしながら、面白いのはデータの所有権に対するトヨタの説明だ。「ブロックチェーンの情報はユーザーのものです。われわれではなくユーザー自身が情報を管理できることは安心につながるはずです」。尋ねられてもいないのにそう答えたのは、トヨタの志だと思う。ブロックチェーンで得た情報をトヨタが独り占めすることだってできなくはない。しかしそれをユーザーのものだとわざわざ言うのは、この新たな取り組みに信頼が強く求められていることをトヨタがよく理解しているからだと思う。

 実際トヨタは、このブロックチェーンをトヨタグループだけのものとは考えていない。サプライヤー各社にとっては、トヨタグループとフォルクスワーゲングループ、GMグループがそれぞれ仕様の異なる台帳を要求するようなことになったら、利便性の向上どころの話ではない。自社の台帳として使い物にならない。切り出して使おうにもコピーもできないし、何よりもそもそもデータベースを分岐させて並行運用するなど正気の沙汰ではない。徹底的に排他制御してデータを枝分かれさせないことがデータベースにとって最も大事なことだ。だから、本来ブロックチェーンの理想は世界にひとつの汎用台帳だ。そこまで行かれるかどうかはまだ分からないが、少なくとも国内の自動車産業でそれぞれ別の仕様になることがあってはならない。それはブロックチェーンの目指す未来とは違う。

パートナーを広げる

 さて、トヨタは今、このブロックチェーンに関してパートナー企業との連携を広げようとしている。その先にはブロックチェーン技術の活用可能性の追求や、ビジネスの実装に向けたトライアルがあるのだろう。

 相変わらずトヨタは強い。「100年に一度の変革」という言葉に対する猛烈な危機意識があるからこそ、こういう着地点の予測が容易ではないプロジェクトを推進できるのだと思う。トヨタ・ブロックチェーン・ラボが果たしてどんな成果を掴んでみせるのか注目していきたい。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行なっている。


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