王者Netflixを倒すのは誰か?――動画配信各社の“戦国時代”、勝敗を徹底分析ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(5/5 ページ)

» 2020年03月30日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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取り合いになる日本コンテンツ、しかし……

 配信事業者にとって厳しい、まさに戦国時代だが、こうしてみると映像制作者、クリエイティブ側からは決して悪い時期でない。多くの配信企業・サービスが乱立するなかで、知名度やブランド価値の高いコンテンツ、ヒット作を生み出せるクリエイター、制作者、スタジオは取り合いになっているからだ。

 強力なコンテンツ、クリエイティブは、巧みな交渉でよりよい条件を引き出すことが可能な時代になっている。それは高騰が続く有力タイトル・クリエイターの契約料に表れている。

 これは日本の映画・ドラマ制作会社、アニメ制作会社、クリエイターにとっても同じだろう。ただ他のジャンルに較べて、日本の制作者たちは十分な条件を引き出せていないようにも映る。

 破格の予算で制作されたというNetflixオリジナルの『全裸監督』は、2019年夏に配信され、日本だけでなくアジアで大ヒットした。既に決定した続編制作の予算はさらに跳ね上がったとも聞く。それだけの価値があったというわけだ。強いコンテンツには、ふさわしい高額の予算が支払われる。そうした時代が訪れている。

日本コンテンツにも問われる「生き残り策」

 これまで海外で強いとされてきた日本アニメには、過去に2度海外からの大きな買付ブームがあった。1つは1970年代〜80年代のヨーロッパ、もう1つは90年代末〜2000年代初頭の北米である。ここには大きな共通点がある。

 70年代〜80年代は、ヨーロッパで国営放送以外のテレビチャンネルが増えた時期で、放送番組が不足していた時期である。そこに低価格で、量があり、人気も高い日本アニメが入る余地があった。90年代末からの北米はCATVの成長期である。テレビ放送からCATVと視聴者のダイナミックな移動がある中で、放送番組の不足が生じた。

 現在の状況は、こうした時期によく似ている。配信サービスの乱立で、日本コンテンツが海外に進出するチャンスが生じている。ただ、これまでの2回のブームを振り返ると、競争はやがて収まり、放送コンテンツは固定化し、やがて海外での日本アニメへのニーズが縮小する結果となった。

 動画配信でも、やがて新規参入が難しい時代がやってくる。その時にいかに日本コンテンツが生き残れるかは、現在の激動期にいかに自らの立ち位置を強化し、築くかにかかっている。動画配信の戦国時代は日本のコンテンツ業界にとってもチャンスであると同時に、今後の生き残りをかけた戦いの時代でもある。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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