幻想の5G 技術面から見る課題と可能性(2/4 ページ)

» 2020年04月01日 07時20分 公開
[斎藤健二ITmedia]

どこでも10倍のスピードが出るわけではない

 しかし、Sub6やミリ波などの電波には物理的な課題もある。「電波が飛びにくくなる。周波数が高くなるほど電波は回り込みにくくなり、空気中の水蒸気などでの減衰も大きくなる」と古川氏は説明する。

 ソフトバンクは2012年前後、900MHz帯のプラチナバンドを獲得するための行動を繰り広げた。このとき盛んにアピールしたのは、2GHz帯よりも周波数の低い900MHz帯のほうが、「ビルの影でも回り込む」「室内にも電波が入りやすい」という点だ。これと同じことが5Gでも起こる。周波数が高くなるほど、電波は直進しやすく障害物の影響を受けるからだ。

 そのため、「スピードが出るエリアが制限されやすい。樹があって葉っぱがゆらゆらしているだけで、それがもろに受信に影響してくる」と古川氏は言う。特にミリ波は直進性が極めて高く、「4G(1.5GHz)と5G(28GHz)の回り込み電波の減衰量を試算してみると、屋内環境において、5Gの電波は4Gの電波に比べて10倍も大きな電波減衰を受けてしまう。電波はせいぜい届いて窓際くらい。基地局が目視できない状況では厳しい」と古川氏は言う。

 ミリ波として割り当てられる帯域は広いが、これを有効活用するには基地局をたくさん設置して基地局が見えるようにする必要がある。いわゆるマイクロセルでエリアをカバーする形だ。しかし、これにはたくさんの基地局が必要になることもあり、ミリ波を中心に5Gエリアを構築しようという通信キャリアはあまりない。

相反する高速化と大容量

 もう一つの5Gの特徴が大容量化(キャパシティの向上)だ。1つの基地局がどのくらいの通信処理能力を持つかというものだと考えると分かりやすい。基地局の後ろにあるコアネットワークの制約もあるが、最大のボトルネックはやはり無線部分だ。

 無線通信では、同じ電波を多くのユーザーで利用するため、理論的には一定のキャパシティを複数のユーザーで分け合うことになる。つまり、多くのユーザーが同時に通信を行ったら、一人あたりのスピードが落ちるわけだ。「5Gで、どこでも10倍のスピードになるかというと、キャパシティも10倍になっていないと、だれもがLTE(4G)の10倍の速度が出るわけではない」と古川氏は説明する。

 5Gサービスが開始されたばかりのタイミングでは、ユーザー数が少ないため、見通しの良い場所であれば理論値に近い高速な通信が可能だろう。しかし、ユーザーが増えるにつれて一人あたりの速度は遅くなる。4Gでもこれが起こり、結果的に月間通信量を規制する、いわゆる「ギガ規制」を行うことになった。

 5Gで大容量化が進めば、「ギガ規制が減るといったメリットはあるかもしれない」(古川氏)といったところが実情だ。

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