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「自宅でもWebカメラをつけて働く」「抵抗感ない」 KDDIの先進事例に学ぶテレワークを成功させるヒント始まりはたった5人、今は最大1万2000人(1/3 ページ)

» 2020年04月03日 08時00分 公開
[らいらITmedia]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、テレワークを推進する企業が増えている。しかし、急いでテレワークを始めた企業の中には、テレワークの環境が整備されていなかったり、社内ルールが構築されていなかったりして、業務に負担がかかっているという声も聞く。

 一方、すでに働き方を見直していたことで、新型コロナウイルスによる業務への影響を最小限に抑えられている企業もある。2005年からテレワークに取り組んでいるKDDIがその1社だ。同社は20年春に最大約1万2000人が同時にテレワークを実施する環境を整えている

 KDDIはテレワークの実現にあたって、どんな壁にぶつかりどうやって乗り越えてきたのか。働き方改革・健康経営推進室室長の田中和則氏と、同推進室働き方改革グループ課長補佐の宮原陽一氏に話を聞いた。

KDDI 働き方改革・健康経営推進室室長の田中和則氏(左)と、同推進室働き方改革グループ課長補佐の宮原陽一氏(右)

たった5人から始まったテレワーク

 KDDIがテレワークを始めたのは、今から15年前。05年当時はテレワークという言葉ではなく、「在宅勤務制度」という名称だった。

 制度の利用に手を挙げたのは、育児や介護などの特別な事情があり、それらと仕事との両立を目指す5人の社員。KDDIのテレワークは、業務効率化や生産性向上というより、ワークライフバランスの向上やダイバーシティー(多様性)といった文脈で始まった。

 最初はPCに挿すことでモバイルデータ通信が可能な「データ通信カード」を配布し、自宅での仕事環境を整えた。08年にはシンクライアントシステムを導入。社員の自宅にあるPCに会社のPCの画面情報だけを転送することで、自宅や外出先でも安全に業務ができる環境を作った。そして翌年の09年、育児や介護といった特別な事情がない社員にも、テレワーク制度の門戸を広げることとなる。

 最初はテレワークが比較的実現しやすい企画系の部門から、50人程度がテレワークで働くようになった。ところが、制度の拡充を目指しつつあった11年3月、東日本大震災が発生する。

 宮原氏は「テレワークを『やろう』ではなく、『やらなければいけない』事態となりました。テレワーク環境の整備は当時500〜600人程度の規模でしたが、一気に2000人に広げ、その後、短期間で1万人がテレワークできる環境を整えました」と当時を振り返る。

 KDDIはサーバを増強し、さらに国内の複数地域にサーバを置くことでリスクを分散化させた。その後も環境整備や社内周知を続けたことで、たった5人で始まったテレワーク制度は、現在、月4500〜5000人の社員が利用するほどまでに規模を広げることができた。

ガーデンエアタワーにあるKDDI 本社のカフェテリアでも仕事できる環境が整っている
取材時は窓際の席で思い思いに仕事をしたり、テーブル席で打ち合わせをしたりする人たちがいた

 なぜこれほどスムーズにテレワーク環境を実現できたのか。その理由について、田中氏は「2003年に本社が飯田橋のガーデンエアタワーへ引っ越したことが素地になった」と話す。

 「今のオフィスに引っ越す際に、社内決裁を全て電子化しました。現在はある程度の意思決定であれば自宅で行えます。稟議書の承認、有給休暇の申請などは社内向けに作られた複数の専用アプリで全て完結できるようになっています。テレワークはペーパーレス化なしに成立しませんし、地方で働く社員もこの変革には喜んでいます」(田中氏)

 ただし、顧客情報を扱う一部の部門は、セキュリティの観点からテレワークに制約がかかっている。「全てテレワークに変えればいい」という画一的な施策ではなく、バランスを取りながら制度を推し進めているという。

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