Netflixが日本アニメの“盟主”を狙う真意――製作現場の脅威、それとも救世主?ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/4 ページ)

» 2020年04月08日 08時00分 公開
[数土直志ITmedia]
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世界のアニメーターを呼び込む

――最後に、日本のアニメを通したグローバルな試みについて。19年からフランスの名門アニメーション学校であるゴブラン校の卒業生であるクレアさんが、日本のスタジオで研修を受けることをNetfixがサポートしています。具体的な成果はありましたか?

櫻井: ものすごく良かったですね。日本のスタジオ側からも非常に評判が良くて。

 ある会社では、クレアは最初「第2原画」というアニメーターの仕事をやっていたのですが、次の週にはより技術の必要な第1原画をやっていました。クレアは「自分は決してゴブランではうまいほうじゃない。そしてゴブランには日本に来たい人がたくさんいる」と話しています。ゴブランの学生はみんな手描きができて、卒業生もみんな日本のスタジオの第1原画ぐらいのレベルがある。

 今後どのように海外との提携を拡大するか検討しているところですが、受け入れ人数を増やすことも視野に入れてます。さらに、アメリカの学校やドイツの学校などにも優秀な学生がいますので、提携を拡大して双方にとって有益な機会を生み出したいと思っています。

――世界のアニメーション業界に対する人材支援ですね。

櫻井: そうです。後は日本人の学生を海外に送りだすことも考えたいです。日本の外の状況を知らないと、(学生たちは)小さくまとまってしまいますから。アニメーターを育成する健全なサイクルを作れないかなと思っていて、それは僕がいま持っている課題の1つです。

――海外でいいますと、20年配信予定のアニメ作品『エデン』では、世界各地のスタッフが集まって制作をしています。これからもこうしたケースは考えられますか。

櫻井: 組み方はケースバイケースですが、他の作品でもかなり実績があります。例えば日本の誰でも知っているようなIPをハリウッドの脚本家が書いたり、(逆に)海外のIPを日本でとことん制作するような試みです。

 海外のゲーム会社やIPを持つクリエイターは、日本のスタジオと仕事をやりたがるんですよ。「日本のスタジオが俺たちの作品を作る」ということに憧れがある。日本が逆に「ハリウッドの脚本家だ!」とあこがれているのと同じです。お互いが尊敬して(仕事で)組みたいというのがあって、うまく組み合わさっています。

――一般的によく言われますが、これまで日本と海外の共同プロジェクトはうまくいかないケースが多かったのですが。

櫻井: 日本も海外も変わってきたのだと思います。日本人も海外の人も、少しフレキシブルになりました。あとはNetflixの役割も大きいのでないでしょうか。僕らは日本語も英語も話し、日本アニメのことが分かっています。さらに、意思決定者の少ない体制を組めるので、もめることはありません。

 Netflixの(アニメ業界への)受け入れられ方は非常に変わりました。最初の頃はすごく警戒されましたが。何回か付き合っていくうちに、(Netflixは)そう無茶なことは言うわけでないと理解をいただいて。日本のいいところは、信用されるまでに時間がかかるけれどいったん信用されると結構預けてくれる。クリエイターも同様です。そうした信頼で成り立っているので、逆に僕たちにはプレッシャーにもなります。そして僕らと付き合いのある会社が、Netflixは信用できると他の会社に話してくれて。そうしたつながりをこれからも広げたいですね。

著者プロフィール

数土直志(すど ただし)

ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に映像ビジネスに関する報道・研究を手掛ける。証券会社を経て2004 年に情報サイト「アニメ!アニメ!」を設立。09年にはアニメビジネス情報の「アニメ! アニメ! ビズ」を立ち上げ編集長を務める。16年に「アニメ! アニメ!」を離れて独立。主な著書に『誰がこれからのアニメをつくるのか? 中国資本とネット配信が起こす静かな革命』 (星海社新書)。


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