クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2020年04月13日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]

理想と現実

 99年には統一通貨ユーロが生まれ、欧州はひとつになっていくかに見えた。

 しかしながら通貨の統一は必ずしもうまくいったとはいえない。域内の国々にはやはり歴然と経済力の差があり、本来それを是正するためのスタビライザーとして為替変動する通貨が存在した。それを統一通貨にしてしまったが故に、為替による経済格差の是正ができなくなった。

EU各国(写真提供:ゲッティイメージズ)

 共同体を維持するため、欧州委員会は、加盟各国に厳しく、共通の財政規律を求めることになったのだが、経済力の強い国は大きな予算が組めるが、弱い国は当然予算も小さくなる。それは時間が経つほどに国によって国民サービスの差が広がっていくことを意味する。ヒトの移動が自由であれば、なおさら経済力の強い国に多くの人が集まり、税収までもが偏っていく形になったのである。

 イタリアのように財政規律を厳しく指摘されて、医療予算すら十分に用意できなかった国からしてみれば、今回の新型コロナで多数の死者が出たことは欧州委員会が招いた人災に見えるだろう。

 いざ新型コロナのパンデミックが起きた途端、長い年月を積み上げて作り上げて来た一つのヨーロッパは一瞬で形骸化した。国境は閉ざされ、ヒト、モノ、カネが自由に移動できなくなった。それは高邁(こうまい)な精神によって成立したEUの終わりを告げる不吉な鐘の音だろう。

 境目のない自由経済によってあらゆるものを円滑に分配し、相互の幸せを願うために一つにまとまったはずの欧州諸国が、いまエゴを剥(む)き出しにして互いを非難しあっている。いや欧州内部だけではない、「米国がマスクを横取りした」「中国から輸入したマスクやPCR検査キットが使い物にならない」とすでにそれは世界に広がっている。

 EUの理念は1つの欧州をスタートに、やがて1つの世界を目指す試みだったはずだ。よくいえばグローバリズムとは国家を超えた1つの世界を求める思想だったはずなのだ。

 しかし現実は違う。理念より経済が先行してしまった。ウォールストリートのビジネスパーソンと、日本一人口の少ない青ヶ島村の老人が電子マネーでつながったとしても、その間の富の流れはおそらく一方通行になる。ビジネスパーソンにとっては世界のいずれの地域ともつながることはメリットになるかもしれないが、村の老人にはウォールストリートとつながっても良いことは多分起きない。グローバリズムは富の二極化を生んでしまったのだ。

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