クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)

» 2020年04月13日 07時20分 公開
[池田直渡ITmedia]
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各社の決算は多くが赤字に沈むだろう

 さてそういう中で、自動車産業がどうなるかだが、全体としては大変厳しい局面を迎えるだろう。5月発表の各社の決算は多くが赤字に沈むだろう。翌年もどうなるか分からない。条件分岐が多すぎて予想というほどの確度ではとてもいえないが、今手元にある材料で判断する限り、比較的復興が早いと思われるのは、米国と日本になるのではないか?

 欧州各国はEUの行き先次第とならざるを得ないし、本当にEU解体ということになれば、通貨の分割から始めなければならない。そんなことになったら10年は浮かんでこないだろう。

 中国もリスクが高い。習近平体制がだいぶ怪しくなってきている。コロナ以前から、景気失速、不動産価格の暴落、失業率の増加、香港問題があり、さらに不良債権問題、巨大財閥の相次ぐ倒産と国有化、対米外交の失敗と、とっさに思い出されるものだけでも失政続き、さらに数え上げようと思えばキリがないほどだ。そこへ新型コロナの追い討ちが加わり、ライバル陣営の粛清という手法で権力を拡大してきた習近平政権は、反対派である江沢民派から見て反撃の狼煙を上げるには最適な状況に自らしてしまったように見える。

 もしそうなれば、米国にとって圧力を掛けやすい状況が整う。もし習近平政権をひっくり返して、無政府状態になったり、軍閥政治にでも転ばれたりしたら目も当てられないが、共産党内に受け皿ができてくれるのであれば、米国にしてみれば押さえ込むまたとないチャンスだろう。

 という欧州と中国の情勢を念頭に置きつつ、自動車メーカーの事業展開を考えるならば、当面、欧州と中国を主戦場とするメーカーはリスクが高い。欧州メーカーはどこも厳しいことになるだろう。国内メーカーでは、欧州に生命線がある会社はないので、中国比率の高い日産とホンダが高リスクだ。

 もちろん日米も大打撃を受けることは間違いないので、他のメーカーも無傷などということはあり得ない。下手をすれば瀕死(ひんし)の領域に踏み込むかもしれないが、それでも2、3年凌(しの)げれば米国マーケットは回復するのではないかと思う。その2、3年をどう凌いで見せるかが経営の勘所になるだろう。

 また、ここ数年自動車メーカーの重大課題だった環境問題は、長期的にはともかく、短期的には凍結される可能性が高い。こんな状況で、さらに経済的な痛みを伴う改革は不可能だろう。だからCASEに関しては優先順位が入れ替わるだろう。自動運転は実現時期が伸びそうだが、シェア系はむしろ追い風になるかもしれない。MaaSの方は大混乱を機にビジネスの再構築を考えることがあれば、それが有意に働く可能性がある。むしろこの経済的苦境を抜け出す原動力になるかもしれない。

 新型コロナがもたらす恐慌は、われわれの考え方や習慣を大きく変えてしまう可能性が高い。しかしそれに備えるためには、まず人類に与えられた命の試練に打ち勝たないことには何も始まらないのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。


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