2019年12月、会計freee(以下、freee)などを提供するfreeeが東証マザーズに上場した(19年12月の記事参照)。赤字上場ではあるものの上場後も株価は堅調に推移している。筆者はfreee関連の業務設計案件も多く、かなり良くできたサービスだと感じているが、実は導入後にバックオフィスの担当者による賛否が真っ二つに分かれるのが会計freeeの特徴だ。
freee導入によって大幅にバックオフィスが効率化された会社もあれば、逆に全く使いこなせずに現場が混乱し、結局従来の会計ソフトに戻してしまった会社もある。これはfreeeが単なる会計データを入力するソフトではなく、業務プロセスそのものを大幅に変えることを前提に設計されているためだ。
前回、インターネット経由で利用するソフトウェア、SaaS(サース)によってバックオフィスの業務が大幅に変わる可能性について触れたが、SaaS活用による業務効率化を実現するためにはソフトウェアに合わせて業務プロセスを変えなければいけない。
今回はfreee導入の成功例と失敗例を見ながら、業務を変えることの難しさやSaaS導入を成功させるためのポイント、そして何よりも企業経営に与える影響について見ていきたい。
ほとんどの会計ソフトでは「仕訳」と呼ばれる簿記形式で入力するが、freeeは「取引」という独自の形式を採用している。取引の裏で「仕訳」は作成され、財務三票も出力することができるのだが、直接「仕訳」を入力させない設計思想やインタフェースが、会計知識のあるベテランの人ほど不評で、使いこなすことができない。
現在の複式簿記は、15世紀のイタリア商人たちのやり方が起源とされている。学校の授業や資格の勉強で簿記を学んだことがある人は、借方・貸方や勘定科目、財務三表など独特の世界観に最初はかなり戸惑ったのではないだろうか。しかし、一度理解してしまえば、複式簿記は非常にシステマティックでよくできた仕組みだ。現代社会でビジネスをする上で必要不可欠な知識であり、それは当面変わらないだろう。
従来の会計ソフトは、売上管理や支払管理の処理と、会計処理をはっきりと切り離した業務プロセスを前提に設計されている。発行した請求書に対する入金確認や、受け取った請求書を見ながら振り込みをするという作業は、バックオフィスの事務作業ではあるが、会計処理ではないからだ。
中小企業では1人の経理担当者が両方の業務を行っていることも多いが、ある程度の規模以上になると入出金を扱う部署と会計処理を行う部門が別々になっている。こういう事情もあり、会計処理しか行わないのが従来の会計ソフトである。
それに対してfreeeは、請求書をfreeeで発行すれば自動で売り上げが計上され、連携した銀行データを使って入金登録をすれば、会計処理上もそれが反映される。請求書発行や入金処理をすれば、自動的に会計処理も完了する仕組みだ。
正しくfreeeを使えば、ほとんど作業をする必要がなくなり、会計処理は大幅に効率化する。ただ、ここで従来の会計ソフトでは生じなかった問題が一つ生じる。請求書発行など経理の管轄外の処理を含めて、freeeベースで全体を再構築しなければならないのである。
これまではどんな処理が行われたとしても、発生時の処理と会計処理が切り離されていた。したがって経理担当者が入力時に内容を精査して正しく登録することができたが、freeeでは会計処理を理解した上で請求書の作成などを行えるように設定しなければならない。経理担当者が、前段階の業務プロセスも含めてすべてを掌握しなければいけなくなるのだ。ベテランの経理スタッフほどこの変化に対応することができない。
これができた企業とできなかった企業では当然に結果は異なる。その事例を見てみよう。
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