B社はある専門分野に特化したコンサルティング会社である。社員数は約300人。プロジェクト単位で案件を受注し、複数年にまたがるものも多い。自社独自で開発した案件管理ソフトを使っていたが、規模が急激に大きくなったため自社ソフトのメンテナンスが追いつかず、多くのプロジェクトでは表計算ソフトのExcelで計数管理されている状況だった。
会計ソフトは中堅どころのものを採用していたが、部門管理や配賦などの機能が足りず限界が来ており、社内の経営会議の資料一つ作るにも徹夜するような状況で、集計ミスも頻発していた。
この状況に業を煮やした経営陣は、Salesforceのうわさを聞きつけ、営業からの提案を受けて即座に導入を決めた。同時にfreeeも導入し、フロントからバックオフィスまでデータが一気通貫した状態も作ろうとした。しかし、実は経営陣の中に自社の運用業務に詳しい人間は1人もいなかったため、トップダウンで導入を決めた後、情報システム部門に導入対応を丸投げした。
困ったのは情報システム部門である。要件定義をするために各部門にヒアリングを行うが、「これまでできたことを、そのままできるようにして欲しい」という意見を言われるだけで、なかなか前に進まなかった。
そんな中でもなんとかリリースにこぎつけるが、使い始めてみると現場からは「あれができない」「これがない」という不満があふれ、結局現場ではExcelがメインであることは変わらず、Salesforceは請求書を出すための数字を入力するだけのツールになってしまった。
freeeにいたっては、契約をしたものの経理部門から「使いにくい」「使い方が分からない」という根強い反対にあった。結局切り替えができずに従来の会計ソフトを使い続け、freeeは1年後に解約することになった。
売り上げは順調に伸び続けているようであるが、各プロジェクトの管理は各マネージャーに完全に属人化しており、相変わらず毎月の経営会議の資料を作成するために経理や経営企画部門は徹夜をしている。
Salesforceを見ても会計ソフトを見ても結果の数字しか入っていないため、その中身を掘り下げていくためには各担当に個別にヒアリングをしていくしかない。私が話を聞いた経理担当者は疲弊しきっており、もうすぐ辞めると言っていた。
Salesforceとfreeeの導入を推進した役員は、「当社の特殊なやり方に対応するには、freeeもSalesforceもまだまだ機能が足りなかった」と言っているようだ。業務プロセスを変えることも、社内の意識を変えることもできずに、SaaS導入に失敗する典型的なパターンである。
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