では、その潮流がどこから始まったのかというと、1999年5月の第52回世界保健総会(WHO総会)である。この場で、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control : FCTC)の起草及び交渉のための政府間交渉会議を設立することが決定された。
このFCTCをきっかけに、世界中で受動喫煙防止の動きが一気に広まっていく。つまり、1999年5月というのは、世界のタバコ産業にとって「終わりの始まり」だったのだ。
それは日本も同様だ。2004年にFCTCに批准してからも、たばこ事業法を根拠に受動喫煙防止対策に根強く抵抗してきたものの、13年に東京五輪の招致に成功をしたことで一気に陥落した。IOCは10年にWHOと「ノースモーク五輪」という協定を結んでいる。五輪招致決定で日本中が浮かれていたあの時に、愛煙家たちの運命は決まっていたというわけだ。
このように世界に強力なタバコ規制を広めるきっかけとなったFCTCの起草決定から1年3カ月後、まるでその勢いにブレーキをかけるかのように、「ニコチンがアルツハイマーに効く」という学術論文が発表されたのだ。世界のタバコ産業が、テレビ、映画、雑誌、そして報道ニュースで仕掛けてきたスピンコントロールを踏まえれば、これを単なる「偶然」と受け取るほうが無理があるのだ。
断っておくが、筆者はこのような過去の事例をもって、フランスの「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」という研究をウソっぱちだなどと主張したいわけではない。科学分野の話なので、こちらはおそらくかの国の研究者がしっかりと科学で証明していくはずだ。
ただ、情報戦の分野では、苦境に追いやられた産業が、起死回生のスピンコントロールを仕掛けることが多々あり、その中にはかつて問題になった高血圧治療薬の臨床研究論文不正事件のように、マーケティングのために「都合のいいエビデンスをつくる」というのはタバコの世界でも決して珍しい話ではない、ということを申し上げたいだけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング