「喫煙者は新型コロナにかかりにくい」 まさかの新説は本当かスピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2020年04月28日 09時09分 公開
[窪田順生ITmedia]

「タバコ」をめぐる情報戦

 「そんな陰謀論のようなことを触れ回るな!」というお叱りを、全国の愛煙家、タバコ業界のみなさんからいただきそうだが、客観的事実として、タバコ業界が苦境に立たされると、どこからともなくタバコの健康面のメリットが唱えられる、というのは「あるある」というか、王道パターンなのだ。

 これまでもニコチンが健康に役立つという研究結果は、世界のさまざまな研究機関から発表されてきた。それ自体は科学の発展に大きく寄与することなので喜ばしいことなのだが、問題はそのタイミングである。往々にして、喫煙の健康被害が国際社会で叩かれたときや、世界的に喫煙規制が強まったとき、ストレートに言ってしまうと、タバコに「大逆風」が吹いているタイミングなのだ。

 例えば分かりやすいのが、愛煙家のみなさんがよく言う「タバコを吸っていると肺がんにはなるけど、アルツハイマーにはならないんだよ」というやつである。ご存じのない方も多くいらっしゃるが、実は現代の医療では、この因果関係は否定されている。むしろ近年では、喫煙が認知症リスクを高めるとか、アルツハイマーの危険因子になるという医学論文のほうが多いくらいなのだ。

 では、なぜそっちが社会に浸透してないのかというと、「ニコチンがアルツハイマーに効く」という研究のほうが先に注目を集めてしまったからだ。タバコがアルツハイマー病に効果があるという説は、古くは1960年代から唱えられているが、科学的根拠をもって主張されるようになったのは、2000年8月に「Smoking and Parkinson’s and Alzheimer’s disease: review of the epidemiological studies.」という学術論文が発表されてからだ。

 先ほど申し上げた、否定する研究はこの論文の「後」に出されている。最近のトイレットペーパーパニックが分かりやすいが、人は最初にインパクトのある話を聞いてしまうと、後になってそれを否定する情報が出てきてもなかなか耳に入らないものなのだ。ただ、筆者がここで指摘したいのは、このインパクトのある「ニコチンがアルツハイマーに効く」といった学術論文が世に出た2000年というタイミングだ。

 タバコ産業に関わる人たちの間では常識だが、実はこの時期は喫煙に対して世界的な大逆風が吹き始めたタイミングなのだ。昨今、愛煙家の方たちに肩身の狭い思いをさせている「受動喫煙防止」。自民党のタバコ族があれだけゴネたのに、なぜこの規制が通ってしまったのかというと、国際的に受動喫煙防止という大きな潮流に、日本が抵抗できなかったことが大きい。

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