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コロナで「減損先送り」が“合法的な粉飾決算”とならないために古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年05月15日 08時10分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「会計版サーキットブレーカー」の是非

 「減損見送り」という施策は、「会計版サーキットブレーカー」と呼ぶこともできるだろう。サーキットブレーカーとは、株式市場において短時間のうちに一定割合株価が下落した場合に発動される取引停止措置だ。

 今年3月のコロナショックでは、NYダウ平均株価指数先物で4回ものサーキットブレーカーが発動し、それぞれ15分間、取引が停止された。この制度は、パニックによって実態以上の株価変動を防ぐ目的で、多くの市場で導入されている。

 今回の減損見送りは、コロナによる一過性の利益減少を、実態以上に評価してしまうことを回避する趣旨があるという点で、「会計版サーキットブレーカー」とも呼べるだろう。減損処理を一時的に見送れば、たしかに融資や資金調達が受けられる可能性が高まる。

 実は、今回検討されているような会計ルールの柔軟適用ないしは会計基準自体の変更は、過去のショック時にも度々実施されてきた。直近では、リーマンショックの2008年に、変動利付国債の時価会計を見送ることができるようにした事例がある。

 当時の資料である「金融資産の時価の算定に関する実務上の取扱い」(企業会計基準委員会)では、「時価」の解釈について、「不利な条件で引き受けざるを得ない取引又は他から強制された取引による価格は時価ではない」とし、合理的な価格を価値算定の基礎とできる旨が記されている。

 今回のコロナショックは、感染拡大防止のために、一時的に店舗の営業や工場の操業停止という不利な決定を取るほかない状況であった。リーマン時対応の趣旨を鑑みれば、現行の会計基準の中で減損処理の見送りを行い、コロナによる一過性のマイナス要因を、過大評価しすぎない会計運用を行うことも、非合理とまではいえないだろう。

企業側は積極的な情報開示が必要

 しかし時期に応じてルールの運用や基準が都度変わってしまえば、継続性のある会計データから、企業の経済的実態を把握することが難しくなってしまうリスクがある。

 つまり、会計の数字上は減損見送りで救われたとしても、企業の経済的実態が骨抜きとなってしまえば元も子もない。このような状況に陥ってしまえば、資金を融資したり投資したりする金融機関や投資家にとって、減損見送りが「合法的な粉飾決算」と見られる危険性もないとはいえないのだ。

 そこで、制度上では、現行の会計基準を「柔軟に」運用するという、「柔軟に」の部分をより明確にし、運用上のガイドラインとして提示すべきである。

 次に企業については、情報開示をより積極的に行うべきであると考える。確かに、コロナ感染終息の見込みがたたない段階では、事業再開までの期間が不明確であり、正確な見積もりが難しい。現に、冒頭の三越伊勢丹ホールディングスの例だけでなく、足元では先行きの見通しが立たないことを理由として、業績予想を非開示とする例も少なくない。

 しかし、いくら非開示であるとしても、内部向けの業績見通しは必ずあるはずだ。そこで、仮に減損処理の見送りが会計ルールの運用上求められる場面があれば、「コロナの影響時期の長短に応じてどのように事業の状況が変遷していくか」という、一歩踏み込んだ情報開示が、金融機関や投資家等の信頼性を高める上で必要だと考えられる。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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