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コロナに苦しむ飲食店を前払いで応援する「さきめし」、そのリスクは?専門家のイロメガネ(4/4 ページ)

» 2020年05月18日 07時10分 公開
[及川修平ITmedia]
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システムの運営者として求められるものとは

 「さきめし」は新しいサービスであるので、まだ分からないことが多い。資金決済法の適用除外という取り扱いをしているという点は先ほど述べたが、非常事態における飲食店支援に目が向くあまり、利用者の保護という視点が置き去りにされていないか。

 飲食店を応援したいという利用者の「善意」をシステム化したもので、それ自体は素晴らしい仕組みかもしれないが、システムを作り取引の場を提供する以上は、利用者が安心して取引できるルール作りは不可欠だ。

 例えばインターネットのオークションサイトを例にすれば、運営者が利用者同士のトラブルに全く関知しなければ、利用者は安心して取引ができなくなってしまう。そのため、サイト運営者が独自に補償を行う例も多い。

 システムの運営者としての責任はどうだろうか。「さきめし」は、手数料を利用額の10パーセントと低額に抑えた薄利のビジネスモデルであるとしているが、薄利であろうが利益を生み出すシステムを運用する一方で、何らの責任は取らないというのは消費者から見ていかがなものか。

 飲食店の倒産リスクについて、運営者が利用者には何らの補償をせず、「損をしたかもしれないけど、自ら善意でやったこと」と、利用者に全てリスクを被せる運営方法は問題と言えないか。

 先払いで受け取った代金で生き残った飲食店があったとして、コロナ禍が収まってからお店に来るのは、過去にお金を払った客、つまりお金を払わないのにサービスを提供しなくてはいけない客だ。コロナ禍の生き残りにお金を使いきってしまったなら、果たしてその後の経営は成り立つのか? ということもあり得る。この仕組みは「売り上げの先食い」である以上、飲食店側も、そのようなリスクがある事は認識したうえで利用すべきだろう。

 さきめしばかりを批判するような内容になってしまったが、リスクがあることを、しっかり明記している点については「正直」なサービスだといえる。他社のケースでは、補償に関する注意書きや説明が全くないケースもあり、加えてこのような取り組みが報じられる際には、善意や応援の側面ばかりが強調され、消費者側のリスクが一切説明されていない記事も目にする。

 このような先払いシステムは、飲食店に限らずホテルなどの業種でも取り扱う企業も現れている。今後、多数の事業者が展開する可能性もある。サービスの提供とともに、参加する企業の審査基準や、トラブルがあった場合の補償など、利用者が安心して利用できる仕組みも併せて作るべきだ。これからのサービスのあり方に注視したい。

筆者:及川修平 司法書士

福岡市内に事務所を構える司法書士。住宅に関するトラブル相談を中心に、これまで専門家の支援を受けにくかった少額の事件に取り組む。そのほか地域で暮らす高齢者の支援も積極的に行っている。

企画協力:シェアーズカフェ・オンライン


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