――その一方で、10年代の後半には、中国の企業が日本のアニメ業界に相次いで進出してきました。この時期は先ほどの話で言うと、中国国内でアニメ映画に対する大規模な投資が始められたのとほぼ同時期ですが、何か関係があるのでしょうか?
数土氏: それはどうでしょうね。15年〜16年というのは、中国の映画市場が急激に盛り上がって、いずれはアメリカを抜いて世界最大になる【※】のでは、というのが見えてきた時期でしたから。その一方で、日本のアニメが中国のWeb配信ですごく盛り上がっていたので、そこに大きな市場があるだろうと考えて、投資に動いたんだと思います。
とはいえ、『誰がこれからのアニメをつくるのか?』を僕が書いたのは、今から約3年前です。それから時間が経(た)って状況が変わってしまって、現状では中国企業による日本のアニメ業界への進出は、あまりうまくいかなかったと、僕は考えています。
【※中国の映画市場が世界最大になる】2019年の中国映画市場における年間興行収入の累計は、642億7000万元(約1兆円)。これに対して北米市場の年間興収累計は、113億2000万ドル(約1兆2500億円)と、市場規模がかなり近づいていた。そこで20年には北米を抜いて、中国が世界最大の映画市場になるのでは、とも言われていた。だが蓋を開けてみれば、新型コロナウイルスの影響で中国の映画館は休業を余儀なくされており、かなり厳しい状況だ
――どうしてですか?
数土氏: 中国企業が日本のアニメ業界に進出する形には、2種類がありました。まず1つ目は、製作委員会に加わるなり、1社出資なりで、日本のアニメに中国企業が製作出資するというもの。もう1つは中国企業が日本にアニメ制作会社を作って、中国資本によるアニメを日本で作ろうというものですね。
でも日本に制作会社を作るといっても、今の日本ではそもそもアニメーターの数が圧倒的に不足しています。その状況で新しいスタジオを作っても、なかなか人が集まらないわけです。それにアニメーターさんとしては、たとえギャラの支払いが良かったとしても、クレジットに名前が出ないとか、日本で放映されないとかになると、モチベーションが下がってしまう。
――もう1つの製作出資のほうは、どうだったのですか?
数土氏: 基本的にリクープ(編注:製作資金を回収)できた作品は、あまりなかったんです。要するにヒットが少なかった。
普通の日本の作品ですら、10本作ってそのうちいくつ当たるかといわれていますから。それで中国の人たちが、例えば何作品かに投資して、そこからヒットが出るかというと、やっぱりなかなか出てこないですよね。
ただ、日中の共同出資に関しては、お互いに良くないところがあったと思います。日本側からすると、例えば日本の企業であればメディアミックスみたいな形でアニメを盛り上げようとするんだけど、中国側はIP(編注:キャラクターやストーリーといった知的財産)を持ちさえすればビジネスは勝手に広がっていくと考えて、そこのところの施策がなかった、という言い分もあるでしょう。でも中国がお金を出してくれるということに、日本側が甘えた部分もあったでしょうし。そういったコミュニケーションのすれ違いはあったと思います。
しかも、そんなふうに中国企業の日本アニメ進出がうまくいかなくなったときに出てきたのが、まさに『羅小黒戦記』なのですよ。
――そこがどうつながるのでしょうか?
数土氏: 3DCGアニメではない手描きの『羅小黒戦記』のような作品が中国国内で作られて、しかもヒットするのであれば、日本で作る必要はないじゃないですか。中国の人たちにしてみれば、日本の高い技術で作品作りをするために、日本に投資したわけです。
でも中国で同じようなレベルの作品が作れるのであれば、日本でやる必要はないですよね。それに中国の人たちが、中国のマーケットをいちばんよく知っているわけですから。
――なるほど、確かにそうですね。
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