#SHIFT

IT業界の「多重下請け問題」を変える真の方法とは? 1次請けから3次請けまで経験した社長が提唱する「0次請け」「IT後進国ニッポン」の病巣に迫る【後編】(3/4 ページ)

» 2020年06月05日 07時15分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

エンジニアのスキルシートを統一化

――0次請け以外にも、業界の改革を進めているそうですが、どのような取り組みなのでしょうか。

高井氏:プロジェクトとエンジニアをマッチングするサービスを、子会社のWhite Boxで立ち上げました。業界を変えるためのプラットフォーム作りです。

 具体的には、エンジニアのスキルシートを統一化して、エンジニアがどのような能力を持っているのかを分かるようにして、クラウドで一元管理します。当社に所属するエンジニアだけでなく、3次請け以降の会社のエンジニアも登録できます。現在パートナー企業は300社まで増えていて、約1万人のエンジニアのスキルデータが集まっています。

phot プラットフォームWhite Boxのサービス画面。エンジニア1人1人のスキルデータを細部まで確認できる

――以前はどのようにしてエンジニアの情報を管理していたのですか。

高井氏:業界ではエンジニアのスキル情報はほぼ管理されていないような状態でした。どのようにエンジニアを探していたのかというと、仕事を発注する側からJAVA使用経験年数などの必要スキルが書かれた指示書がメール添付で送られてきてから、下請け企業が自社や協力会社のエンジニアのスキルシートをかき集め、必要スキルが書かれているエンジニアを探すというアナログなやり方です。

 さらに問題なのは、必要な情報がきちんと書かれたスキルシートがほぼないことです。なぜそうなってしまうのかというと、エンジニア一人ひとりがオリジナルフォーマットで何となくスキルシートを作っていることが多いから。この業界では、エンジニアがすぐにやめてしまうことも多く、スキルシートを自社のフォーマットで社内管理していること自体が稀で、エンジニアの手元にある状態がデフォルトなのです。

 発注側が求めるスキルをエンジニアが持っているのかどうか、すぐに読み取れるフォーマットに、スキルシートを統一化することも重要な業界改革です。

phot 5次、6次請けまで存在するという多重下請け構造を、White Boxは2階層に改革しようとしている

――スキルシートを統一化することで、具体的にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。

高井氏:エンジニアの情報が集まると、未来の案件にマッチングすることができます。エンジニアは、いまよりも確実にスキルアップできる案件に契約することが可能になります。

 優秀なエンジニアはクライアントが離したがらず、開発が終わった後も保守運用案件に携わるケースが多いです。ですが、それではスキルアップができません。エンジニアが所属する会社は、次の案件が決まっているわけではないので、エンジニアを引き上げるとも言えません。そんな交渉をしたら関係性が悪くなってしまいます。そうなると結局、優秀なエンジニアは転職してしまうのです。

 スキルシートを統一化して、未来の案件とマッチングができていれば、エンジニアのスキルアップが可能になります。会社も次の契約が決まっているので、いまのクライアントに対して引き上げ交渉ができます。スキルシートの登録者を増やして、0次請けの仕組みができていけば、業界の構造改革につながっていくと考えています。

phot 一般的なスキルシート。エンジニアを抱える3次請け以下の企業の多くがこのような「履歴書どまりのスキルシート」を作っている。このようなスキルシートだとスキル情報量が少なく、クライアント企業の窓口ではじかれてしまう可能性が高くなる
phot 上記のスキルシート赤枠部分が1つのプロジェクト経歴情報。大抵3〜5行で終わらせてしまっているが、情報戦略テクノロジーのスキルシートだと以下のようになる
phot 情報戦略テクノロジーが進めるスキルシートでは、1つのプロジェクト経歴情報がこれだけの情報量になる。スキルシートは「エンジニア版の職務経歴書」とイメージされることが多いが、本来はやってきたこと・プロジェクトだけでなく、そこで使用された技術スキルやツールなどが事細かく記されていないと本当の意味での「スキルシート」ではない。実際にはこの程度の情報が書かれていないと、クライアント企業はエンジニアが必要スキルを備えているかどうかを読み取ることができないのだ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.