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Zoom面接のプロが教える「採用のオンライン化」で得られるもの、失われるものアフターコロナ 仕事はこう変わる(2/3 ページ)

» 2020年06月05日 17時07分 公開
[霜田明寛ITmedia]

押さえておくべき「会社の判断基準」

 そこで知っておくべきなのが、感度の高い学生による「企業選びの基準の変化」だ。この緊急事態宣言下の中で、多くの人は、テレワークや時差出勤など、これまで“できない”と思っていたことが、実は“できてしまった”ことに気付くこととなった。皆が“できない”と思い込んでいた時代はいいが、“できてしまった”ことに気付いた後に、元の状態に戻すのは、感度の高い若者の目には“遅れている”と映ることになる。

 これは就活生に限らす、若手社員の中途採用市場にも共通することだが、若者の会社の判断基準は総合すると以下のようなものに変化している。

  • 出社させる企業→社員を大事にしない
  • 出社させない企業→社員を大事にする
  • テレワーク可能な企業→先鋭的な企業
  • テレワーク不可能な企業→時代についていってない企業

 この判断基準にはもちろん多くの例外がある。だが、現状としてはこのような基準で企業は若者に見つめられている。これまでは「直接会いに行くのがマナー」だった社会から、今は「直接会いに来る方が『マナーがない人』と疑われる」など、大きな価値変換がおきている真っ最中なのである。

 以上のことを鑑みると、感度が高く優秀な層の学生の採用を考えるのであれば、しばらくはオンライン面接を続けるのが懸命だ。選考の序盤〜中盤はオンラインで行い、最終面接だけは直接会うといった形式を実施している企業も多くあり、それは検討の範囲内だろう。

 また以前から、福利厚生の充実度を企業選びの基準にあげる学生は多くいたが、その多くは「会社に貢献できるか」よりも「会社にどれくらい養ってもらえるか」と思考する傾向にあり、優秀層とは言い難かった。そこに投資をするのであれば、社員がテレワークをしやすい方向に舵を切るほうが、就活生を引きつける予算の使い方といえるだろう。自宅作業環境の充実のために必要な物品の購入費用を3万円まで負担したトレンダーズや、「リモート飲み会」の費用などを3000円まで補助するようにしたグリーなどの企業も実際に出てきている。

phot 筆者が就活生へのセミナーで使用しているスライド「リモート面接が一気に有利になる7箇条」。「カメラ下だと偉そうに見える」などは企業側にとっても参考になる内容だ

オンライン面接はどう変わるか?

 それでは、面接のオンライン化を進めていく上で、実際に“人を判断する”という行為に、どのような変化が起きるのか、そもそもオンラインで人を判断することは可能なのか、考えていきたい。

 筆者が就活生とのオンライン面接練習を続けて感じた、面接のオンライン化によって、採用側が「判断しやすくなるもの」と「判断しにくくなるもの」を列挙していく。

 また、あくまで以下の項目は、多くの採用担当者・面接担当者が公には言わずとも、人を選ぶときの基準としている要素のうち、何が判断しやすくなるのかという事実であり、それを採用の基準に入れることを是とするものではないことを付記しておく。

<判断しやすくなるもの>

(1)より素に近い姿

 企業まで面接を受けに来る、という行程そのものが就活生を“武装”させていた。だが、家での面接は、スーツも強要されず限りなく“非武装”に近い姿をのぞくことができる。もちろんこれまでも、素の姿を見たいという名目で私服面接などは行われていた。だが、“その日だけ”の服装よりも、簡単には変えることのできない部屋の様子のほうが、ごまかしづらくその人の素の人となりを表しているといえるだろう。

(2)経済状況・家庭環境

 (1)のように、ごまかしづらいのが部屋だ。壁紙の種類や部屋の大きさなどから、育ってきた環境を知ることができる。筆者が面談した中には、「自分の部屋がないので、オンライン面接のために父の部屋を借りている」という女性の就活生もいて、そのような会話から親子の関係性なども伺える。

(3)論理構成力

 拙著『パンチラ見せれば通るわよっ!―テレビ局就活の極意』(サンクチュアリ出版)では、“自分の持つもの全てを武器にして”アナウンサー就活をのりきる女子大生の姿を描写した。後述するが、オンライン面接では、顔のみが映し出されるため、判断要素としてのルックスの持つ力の割合が減ることになる。

 「相手のルックスが好みだと気になって話に集中できない」は採用の局面に関わらず日常でも発生するが、その逆で、画面越しの距離がある分、落ち着きも生まれ、より話の内容に集中することになる。学生側の詭弁や論理的破綻は見抜きやすくなると言っていいだろう。

(4)新しいものに適応する力

 学生がオンライン面接に適応しているかどうか。これは「(会社で)新しいルールが敷かれたときに、すぐに最適な手段を見つけられるか」という仕事の面でも必要なスキルの芽の有無に通じてくる。筆者がステイホーム期間中に4度面談した学生のAさんは、自分の顔が明るく映し出されるためのライトや、相手にクリアに音声を伝えるためのマイクなどをネットで買いそろえ、面談の度にコミュニケーションがしやすくなっていった。

 これらは今後のオンライン化する社会において“新しいマナー”になり得るものであり、それを察知し、適応していく力は、入社後の活躍度合いを測るものになるだろう。

phot 相手のことを考えられる就活生Aさんは自分の顔が明るく映し出されるためのライトや、自然にカメラ目線になるような外付けのカメラなどをネットで買いそろえていた。こうした適応力は入社後の活躍度合いの指針にもなる
phot ライトやマイクを買いそろえたAさん。表情などが相手にとっても見えやすいように工夫が凝らされている

(5)人柄やセンス

 その人が大事にしているものは、部屋を見れば判断することができる。本棚にある本は何か、壁に飾ってあるのが、家族との写真なのか、画家の絵なのか、賞状なのか。仮にバーチャル背景だったとしても、無数の選択肢の中から選ぶ1枚の背景にはその人のセンスが表れる。正直、背景でも自己PRができる中で、Zoomにデフォルトで設定されている背景を使う就活生には「言われたマニュアルに何の疑問も持たず、工夫もせずにこなすだけの“自分の頭を使えない”人材なのではないか」という疑念が拭えない。

 筆者が面接練習をした就活生は、PCで絵を描いているという自己PRをしていた。「どんな絵か見せてもらうことはできますか?」と聞くと、こう返ってきた。「今、私の背景にうつっているデザイン。これが私の絵です」と。

 以上が判断しやすくなるものだ。逆にオンラインでは判断しにくくなるものを見てみよう。

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