「外国人観光客はお断り」という“塩対応”が、よろしくない理由スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2020年06月09日 08時47分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本の観光業、再び斜陽産業に?

 旅行者はじわじわと減っていく中で、1人当たり3〜5万円という単価がそれほど変わらなければ当然、全体の消費額はじわじわと減っていく。この流れは残念ながら、いくら「ゆるキャラブーム」を仕掛けても、ご当地グルメをPRしても食い止めることができないのだ。

 つまり、日本人観光客だけにフォーカスを当てていた時代の観光は、「縮小する日本」を象徴するような、典型的な斜陽産業だったのである。そんな青息吐息の日本の観光業者が、12年ごろから徐々に息を吹き返していく。もうお分かりだろう。インバウンドによって客単価が増えたからだ。

 訪日外国人の旅行支出は、12年の1人当たり旅行支出が11万1983円だったが、海外旅行によりカネを落とすヨーロッパやオーストラリアからの観光客が増えるにつれて増加。19年には15万458円にまでなっている。この「金払いのいい上客」の登場が、斜陽産業だった観光を徐々に蘇らせたことは、さまざまなデータが物語っている。

 例えば、19年版「観光白書」によれば、宿泊業の従業員1人当たりの売上金額は、11年に826万円だったが、15年には940万円まで上がった。また、賃金も上がっている。厚労省の賃金構造基本統計によると、「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与その他特別給与額」の合計額は12年が320万7000円だったが、18年には355万9000円に上がった。

 「カネを落とさない観光客」だけをもてなすことで低賃金重労働が常態化していたブラックな業界が、「カネを落とす観光客」が増えたことでようやく改善の兆しがでてきたのだ。それは裏を返せば、「コロナを機にインバウンドなんかより日本人観光客を大切にすべき」というのをもし本気でやってしまうと、ようやく成長基調にのった日本の観光業を10年前の斜陽産業に戻してしまうことなのだ。

 というと、「いや、日本人観光客だって国や観光業側がいろいろ工夫をすればもっとカネを落とすようになる」と食い下がる人も多いかもしれないが、30年できなかったことがここにきて急にできると考えるのはさすがに無理がある。

 そこに加えて忘れてはいけないのは、日本人のいう「客をもっと大切にしろ」ということは、「もっと安くもっといいサービス(商品)を提供しろ」と求めていることに等しいことだ。

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