これはマズい。先ほど宿泊業の賃金が上がっていると述べたが、実はそれでも全業種平均(497万2000円)を大きく下回っている。つまり、低賃金重労働のブラック業界が、金払いのいい外国人観光客が増えてようやく少し賃金が上がってきた状況だ。
そんなところで、急にこの「上客」が消えて、カネはそこまで払わないくせに「お客様は神様だろ」なんて理不尽な要求をする日本人観光客ばかりが押し掛けたら――。働いている人たちは確実に潰れてしまうだろう。筆者が日本人観光客だけにフォーカスを当てたら「観光が死ぬ」と申し上げたのは、これが理由だ。
もちろん、だからといって日本人観光客なんてどうでもいいと言うわけではない。インバウンドに力を入れて日本の観光がもっと稼げるようになれば、観光産業がさらに成長して、有能な人材も入ってくる。新しいアイデアも生まれるし、世界中から投資もされる。
「安さ」「お得」ばかりにフォーカスを当てない、もっと多種多様で幅広い観光がこの国で楽しめることになるのだ。そうなれば、観光はなるべく安く、できればタダでというケチな日本人の意識も少しは変わっていく、かもしれない。インバウンドを大切にすることは、実は長い目でみれば日本人観光客のメリットにもなるのだ。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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