米国(以下、アメリカ)の宇宙ベンチャー・SpaceXは5月30日午後3時22分(日本時間31日午前4時22分)、フロリダ州のケネディ宇宙センターで、NASA(アメリカ航空宇宙局)の宇宙飛行士2人を乗せた宇宙船クルードラゴンの打ち上げに成功した。アメリカからの有人宇宙飛行は2011年のスペースシャトル以来9年ぶり。民間企業が開発を主導した有人宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)に接続するのは初めてのことだ。
この偉業を達成したSpaceXは2002年創業。創業者でCEOを務めるのは、米・電気自動車大手テスラのCEOでもあるイーロン・マスク氏。ケネディ宇宙センターで打ち上げ成功に喜ぶ姿が報じられた。
この歴史的瞬間を、北海道大樹町の宇宙ベンチャー・インターステラテクノロジズ社長の稲川貴大氏は日本から見ていた。稲川氏は、「イーロン・マスク氏がクローズアップされているけれども、偉業の裏には“天才技術者”の存在があった」と指摘する。
SpaceXと同じくベンチャーとして宇宙事業の発展を目指している稲川氏が率いるインターステラテクノロジズは、6月13日に観測ロケット「えんとつ町のプペル MOMO5号機」を打ち上げる。この打ち上げ成功の可否は、同社が定常的にロケットを打ち上げられるどうかを示すメルクマールとなり得るもので、事実上、商業化への道筋を示すものだ。
まさに同社にとって「正念場」となるこの打ち上げを前にして、SpaceXの快挙を見つめた稲川氏にインタビューを実施。SpaceXの有人宇宙飛行成功の歴史的意義と偉業の背景を聞いた。
「SpaceXによる有人宇宙飛行の成功は、宇宙開発に取り組む関係者全員にとってショッキングな出来事です。何人かの関係者と話もしましたが、ショックが強すぎて逆に映像を見ることができないと話す人もいました(笑)。
SpaceXが人を宇宙に運んだことで、宇宙業界にとってNASAがすごいというこれまでの世界を変えました。全てではないにせよ、一部においてSpaceXがNASAを超えたといえるでしょう」
稲川氏は、SpaceXが有人の宇宙飛行を成功させたことを「歴史的な偉業」と興奮気味に話した。アポロ11号が有人の月面着陸を果たしたのは51年前の1969年。クルードラゴンは2011年に退役したスペースシャトル以来、アメリカでは5機目の有人宇宙船になる。
クルードラゴンがこれまでと大きく違うのは、民間の宇宙ベンチャー主導で開発した宇宙船であることだ。これまでの有人の宇宙飛行は、国家が主導して実現してきたものだった。その変化を稲川氏は次のように解説する。
「スペースシャトルがなぜ退役したかというと、有人宇宙飛行はとんでもなくお金がかかるため、NASAではもうできないという文脈があったからです。ところが、SpaceXは民間の努力によって、これまでよりも安く有人宇宙船を作ることを実現しました。NASAという公的機関ではなく、民間の力を活用した宇宙開発にシフトしたところに、アメリカのすごさがあると思います」
クルードラゴンが打ち上げられたケネディ宇宙センターには、トランプ大統領も、ペンス副大統領も観覧に訪れた。その状況だけをとってみても、今回の打ち上げに対するアメリカ政府が分かる。
「トランプ大統領が来ていたのは象徴的ですよね。アメリカはアポロ計画の頃から宇宙産業に多額の税金を投じてきました。アメリカはスペースシャトルまでは宇宙産業において偉大な存在でしたが、この9年間はロシアのソユーズでアメリカ人をISSに送るなど、偉大な存在とはいえませんでした。それが再び偉大な存在になったと言えます」
稲川氏が率いるインターステラテクノロジズは、5月2日に予定していた小型観測ロケットの「えんとつ町のプペル MOMO5号機」の打ち上げを、大樹町長からの強い要請によって延期した。ロケット打上げには最大限の新型コロナウイルス対策を講じる予定であったが、感染が広がっている状況下で、来町の自粛を呼びかけてもなお打ち上げを見に大樹町に多くの人が訪れるのではないかと、大樹町が危惧したためだった。
一方のアメリカでは、大統領と副大統領が打ち上げを見守るため現地に足を運んだ。打ち上げの瞬間を見るトランプ大統領の後ろ姿の写真は、アメリカ国内だけでなく世界中に広く報じられた。宇宙開発は国家安全保障の面もある。有人宇宙飛行の成功は、近年ロシアの後塵を拝し、中国への危機感を感じていたアメリカが、トランプ大統領の掲げる「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」のスローガンに合致する快挙を成し遂げたことを、世界に強くアピールしたといえる。
アメリカと日本の差は、あまりにも大きい。
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