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インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?スペースシャトル以来9年ぶり(2/4 ページ)

» 2020年06月12日 08時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]
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成功の裏に天才技術者の存在

 クルードラゴンの成功によって、イーロン・マスク氏が脚光を浴びていることは当然といえる。ネット決済サービスのペイパルの前身になる会社を設立し、その会社を売却するなど、他の事業で築いた財産を投じて、2002年に創業したSpaceXを成長させてきたからだ。

phot ネット決済サービスのペイパルの前身になる会社を設立し、その会社を売却するなど、他の事業で築いた財産を投じてSpaceXを創業したイーロン・マスク氏(Wikipediaより)

 しかし、稲川氏はイーロン・マスク氏だけではこの偉業は達成できなかったと考えている。稲川氏が重要な人物としてあげるのが、トム・ミュラー氏。SpaceXに創業当時から参加し、副社長を経て、現在はアドバイザーの立場にある。

 「あまり語られる機会がありませんが、今回の打ち上げを成功に導いた重要な人物は、間違いなくトム・ミュラー氏です。SpaceXでロケットエンジンの主任設計者を務めていて、打ち上げに使われたファルコン9のMerlinというエンジンを開発しました。

 Merlinの何がすごいのかというと、圧倒的な安さです。スペースシャトルのメインエンジンは、1基あたり約55億円といわれていました。それが、Merlinは1億円程度と見られています。ロケットエンジンの原理原則は50年前から同じなので、安く開発できるところに、優れた技術力があります」

phot SpaceXに創業当時から参加し、副社長を経て、現在はアドバイザーの立場にあるトム・ミュラー氏(Loyola Marymount UniversityのWebサイトより)

 トム・ミュラー氏は、アポロの月面着陸用のエンジンも開発していた自動車部品会社のTRWで研さんを積んだ。TRW在職中に週末を使い、1998年から2002年まではアマチュアのロケットグループに入って趣味としてロケットを開発。最大でも5メートル程度の小さなロケットの打ち上げに取り組んでいた。本職でも趣味でもロケット開発を続けていたのだ。

 その時にイーロン・マスク氏と出会った。自分なら安くロケットを作れるとイーロン・マスク氏に話し、さらにちょうど他の企業に買収されることになっていたTRWのチームを引き連れて、SpaceXの立ち上げに関わった。

 過去の宇宙開発の成功は、軍事技術によるところが大きい。ただしその裏には、必ず天才的な技術者の存在があったと稲川氏は説明する。

 「アポロ計画を主導したのは、フォン・ブラウンという科学者です。ヒトラーが率いるナチスドイツでロケットミサイルV−2の開発に関わり、第二次世界大戦後にアメリカに亡命して、ケネディ大統領のもとでアポロのエンジンを開発しました。

phot アポロ計画を主導したフォン・ブラウン(Wikipediaより)

 一方、旧ソ連では、世界で初めて大陸間弾道ミサイルを開発したセルゲイ・コロリョフが、ロケットの開発を担いました。世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げや、世界初の有人宇宙飛行を成功させています。コロリョフを重用したのは、旧ソ連の最高指導者だったフルシチョフ氏です。

 宇宙開発の偉業では指導者である政治家の名前が取り沙汰されますが、その成功を支えたのは“天才技術者”です。SpaceXの民間初の偉業も、“天才技術者”であるトム・ミュラー氏とイーロン・マスク氏の出会いがあったからこそ成し遂げられたのだと思います」

phot 世界で初めて大陸間弾道ミサイルを開発したセルゲイ・コロリョフ(Wikipediaより)

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