コロナ禍は、地権者だけが得をする「不労所得スパイラル」を食い止められるか小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)

» 2020年06月29日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]

 外出自粛の日々が終わり、街にはかなりの賑わいが戻ってきた。電車は、また満員の乗客を乗せて走り、ターミナルや繁華街には以前とあまり変わらない雑踏が帰ってきたようにみえる。ただ、よく見ると少しずつ風景は変わっていて、マスクをしていない人はほとんどいないし、電車はエアコンをつけながらも窓を開けて運行している。多くの飲食店では入り口を開け放って換気をしており、小売店のレジ前に設置された飛沫防止用の透明シートもいつの間にか違和感がなくなった。今のところ、コロナ禍は収束に向かってはいるが、ウイルスが消え去ったわけでもなく、第2波、第3波の襲来も避けられないといわれている。感染予防に留意した「新しい生活様式」の下で生きていく、いわゆる「ウィズコロナ」生活が始まったということなのだろう。

 現時点の専門家の方々の話によれば、このウイルスは空気感染するわけではなく、あくまでも飛沫感染を避けることが重要であるらしく、満員電車や閉鎖空間でも、口や鼻からの飛沫が飛ばないようにすれば、感染リスクは大きくはないという。その意味でマスクの効果は大きく、閉鎖空間でおのおのが飛沫を発しないように努めれば、その空間の感染リスクは大幅に軽減される。また空気中に飛沫がすぐに拡散されるオープンエアの場所ではマスクの着用が必須ではないらしく、専門家自身、路上を歩くときなどはマスクを外しているとも話していた。確かに、医療、介護施設以外でのクラスター発生が、ライブハウスやカラオケ店、接待を伴う飲食店などの大声でしゃべる閉鎖空間に偏りがちなのは、こうしたウイルスの性質によるものなのだろう。しゃべったり、歌ったり、といった最も人間らしい営みをウイルスによって封じられるとは、人間は「自然界の異物」として排除されようとしているのかもしれない。

 コロナウイルスを意識した生活は、ワクチンが開発され普及するまでの間は続くことになり、感染予防を意識した新たな生活様式とならざるを得ない。これまでなるべく多くの人を集める仕組みを作って、販売やサービス提供をおこなってきた店舗ビジネスは、ソーシャルディスタンスという概念に合わせて、その前提とする店舗の人口密度を見直さざるをえなくなった。ウィズコロナが解消するまでは、コロナ以前に比べて減収となることを前提として、損益分岐点を再構築しなければならないということだ。ウイルスに感染しても普通の風邪と化すアフターコロナの時期は、何年か先には必ず来るはずなのだが、店舗ビジネスとして生き残るためには、その間を生き残るための自助努力が必要になる。その想定しなければならない減収度合いは、業種業態によってまちまちだ。

 自粛期間中、小売企業の動向は休業要請対象業種となったか否かによって、全く異なる結果となった。次の図は、上場小売業の既存店売上増減率(前年同月比)の4月、5月の実績値を抽出したものだが、休業要請の対象とならなかった食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの業態が売り上げを伸ばしているのに対して、休業を余儀なくされた百貨店や、ショッピングセンターへのテナント出店を中心とする衣料品、雑貨小売が大幅に減収となっていることが分かる。

小売業は休業要請が分かれ目となった

 この表で留意していただきたいのは、この明暗はあくまでも商業施設として休業せねばならなかった時期の一時的な結果であって、店舗を開けること自体に制約がなくなるウィズコロナ期における動向とは関係がない、ということである。6月前半の実績を公表した大手百貨店においても、店を開ければ売り上げは前年比7〜8割までは戻していることは確認できており、この表のような状況が続くことはない。ただ、店舗内が過密になることを避けつつ、感染防止を最優先とした接客体制を作っていかねばならない上、消費者側も感染への警戒心が浸透し、目的もなくウィンドウショッピングといった雰囲気は乏しい。売り上げが元に戻るまでには、相当の時間が必要になるだろう。ウィズコロナは多くの店舗小売業にとって長く厳しい時代になることは間違いない。

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