ふるさと納税「復活」の泉佐野市を支持すべき2つの理由古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年07月10日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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還元率が高いのは本当に“悪”なのか

 また、泉佐野市を非難する論拠の一つでもある「還元率が高い」ことを悪と捉える風潮にも、若干の疑問がある。現在では、返礼品が地場産品であることを原則としている以上、還元率が高いことは地場産業の売上向上にも寄与する構造となる。結果として高還元率は地域振興にもメリットが大きい。さらに、仮に全てが地域振興にあてられないとしても、利益があればそれを地域振興にあてられることから、黒字である限りは許容されるべきではないだろうか。

 現に、このような高い還元率をうたうマーケティング手法は、今日の民間企業でもごく一般に展開されている。例えば、スマホコード決済最大手のPayPayはどうだろうか。PayPayは決済手数料が現段階では無料であるにも関わらず、20年3月期では平常時、決済あたり1.5%の還元を実施しており、キャンペーン時はそれよりも多額の還元を実施していた。

 つまり、PayPayは収入が多くないにも関わらず自腹を切って還元することで、顧客を獲得している。その結果、PayPayの20年3月期決算は営業損失834.6億円というとんでもない数字となった。しかし、このレベルの赤字を出せる背景には、マーケットの総取りによる長期的な収入が、それまでにかかる営業損失を上回るという判断があるからこそである。PayPay以外にも、顧客獲得のために現金をプレゼントしたり、高い還元率をアピールしたりする企業の存在は珍しくなく、それにより事業が短期的に赤字に陥ることもままあるのが通常だ。

 それでは泉佐野市の事例ではどうだろうか。泉佐野市の返礼割合は「100億円還元閉店セール」以外の平常時では、概ね5割程度だった。残った5割から、送料やポータルサイト利用料やその他の経費の相場として一般的に3割程度が引かれる。そうすると、泉佐野市が集めた寄付金498億円のうち、99億6000万円相当が手取りとなる試算になる。そう考えると、泉佐野市の還元は、先ほど検討した民間企業よりもよっぽど安全運転であるといえないだろうか。同市は、500億円近いプロジェクトに対して2割に相当する100億円近い利益を出していることになり、黒字で成立させることに成功している。

ふるさと納税の閉店セールといえる、「100億円還元閉店セール」の際には、「地場産品問題体感コース」「経費50%問題体感コース」「ポータルサイト手数料問題コース」などと名付け、還元率50%以上で展開していた

文句を言うか工夫をするか

 ここまで考えると、国は、ふるさと納税に際して地方自治体が大胆な意思決定を取ることを制限したかったのであれば、制度設計を綿密に行っておく必要があった。したがって、国側が批判されることはあっても、制度の枠組みで自治体経営の効果を最大化させた泉佐野市側が批判されるいわれは、ほとんどない。

 また、泉佐野市を非難していた自治体は、税金が間接的に流出することを非難するばかりで、本当に泉佐野市のような経営努力をしてきたといえるのだろうか。仮に、他の自治体もふるさと納税で効果を高めるために努力していれば、泉佐野市がここまで一人勝ちすることもなかったはずだ。

 確かに、地方公共団体の間で過度な競争が発生することは避けるべきである。そうであるとすれば、やはり制度設計が不十分な状態で実施を決めた国に対して眉をひそめるべきだったのではないか。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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