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テレワークの「リバウンド」はなぜ起きる? 「意識が低い」で片付けられない構造的な問題スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2020年07月14日 09時01分 公開
[窪田順生ITmedia]

合理的にテレワークを敬遠

 そして、もうひとつよく指摘されるのが、「社畜」に象徴される日本のサラリーマンの意識の低さだ。

 「やっぱりリモート会議じゃ腹をわって話し合いができないよな」「こういうときこそ、お客さんのところにしっかりとあいさつまわりをすべきだ」なんてテレワークに後ろ向きなアナログ上司の同調圧力に屈して、テレワークでやろうと思えばやれてしまうのに、なし崩し的に出社してしまう。要するに、テレワークの利便性を、組織人としての忠誠心がチャラにしてしまっているというのだ。

 実際、ネットのビジネス記事の中には、テレワークが定着しないのは、経営者や管理職の意識が低いからだとして、そのような会社は心を入れ替えて反省すべきだと主張するような啓蒙(けいもう)的ものが少なくない。ただ、そういう分析にケチをつけるわけではないが、withコロナ時代のオフィスに意識高い系おじさんが増えたとしても、日本全体のテレワークの普及率はそこまで劇的に上がることはないだろう。

 企業のテレワークは、「意識」などというふわっとした話に後押しされるようなものではなく、ごくごくシンプルに「会社の規模」と密接な関係があるからだ。具体的に言うと、大企業はテレワークをスムーズに導入できるが、会社の規模が小さくなればなるほどテレワークの導入が困難になっていくのだ。

 そう聞くと、「ウチの会社は社員10人でもテレワークを導入しているぞ!」とか「社員50人ほどの中小企業だが、テレワークを導入したら仕事の生産性が劇的に上がった」と反論をする方もいらっしゃるだろうが、そういう個別の話ではなく、日本全体で見ると、明らかにそのような傾向が確認されており、「意識をあげる」などという根性論では解決できない構造的な問題が見て取れるのだ。

 例えば、中小企業の団体である東京商工会議所が、2020年3月に実施したテレワーク導入率の調査が分かりやすい。従業員数300人以上の企業は57.1%。これが、50人以上300人未満の企業になると28.2%、50人未満の企業になると、なんとわずか14.4%しかない。

 この傾向は、新型コロナという「劇薬」がもたらされても、そこまで変わらなかった。コンカーが、ビジネスパーソン1032人を対象に「緊急事態宣言の間、テレワークできましたか?」という質問をしたところ、従業員1000人以上の企業で働く人の72%は「週1回以上できた」と答えたのに対し、1000人未満の中小企業では55%の人が「ほとんど〜全くできなかった」と回答している。

従業員数が減るにつれてテレワークができる割合も下がっている(出典:コンカー)

 ちょっと考えればこれは当然だ。小さな会社になればなるほど、設備投資にカネをかけられない。ましてやテレワークは導入すればチャリンチャリンと金を生むような投資ではないので後回しにされがちだ。

 また、中小企業になればなるほどペーパーレス化やセキュリティ環境の整備なども進んでいないので、「テレワークをしない」選択をしたほうが会社としては懐が痛まない。これまで通りに社員に出社してもらって、これまで通りに働いてもらったほうがめんどくさいことが少なくて、目の前の仕事に集中できる。要するに、小さな会社になればなるほど、合理的判断に基づいてテレワークを敬遠する傾向があるのだ。

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