Facebookのヘイト対策に「大穴」 〜ザッカーバーグの矛盾とは〜星暁雄「21世紀のイノベーションのジレンマ」(4/5 ページ)

» 2020年07月22日 07時10分 公開
[星暁雄ITmedia]

「表現の自由」の使いどころを問題視

 Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、19年10月のジョージタウン大学で行ったスピーチで、「表現の自由」を強調した。ザッカーバーグCEOは、「トランプ大統領のような有力な人物の考えは、それが有害であったとしても知られるべき」という趣旨の発言もしている。

 この方針を貫く場合、政治家、特にトランプ大統領はどのような発言も可能となってしまう。他のFacebookユーザーがヘイトスピーチを禁止するポリシーに従っている中で、トランプ大統領や一部の政治家がデマやヘイトスピーチをし放題であることは平等の原則に反する――これが公民権監査の最終報告書で指摘されている課題だ。

 報告書では、監査人は「政治家の言説を放置する」決定に強く異議を唱えている。「権力のある政治家が他の人たちと同じルールを守る必要がないなら、力がない声よりも特定の声が優遇される言論のヒエラルキーが生まれる。平等や差別の撤廃などの他の価値観よりも、表現の自由が優先されるということは、監査人にとって深く悩ましい」と記している。トランプ大統領の表現の自由を追求しつつ、Facebookユーザーの間での平等を低く見る姿勢を批判している。

 普通のFacebookユーザーが投票行動に影響するようなデマを発信したり、差別的な発言、暴力的な発言をしたりすれば、ポリシー違反となり発見されしだい削除されるだろう。ところがトランプ大統領の発言はどれだけ内容が悪質であっても放置される。しかも、トランプ大統領の社会的影響力は大きく、その書き込み内容には大統領選挙へのデマが含まれている。放置すれば社会の混乱を引き起こしかねない。多くの一般ユーザーに対するヘイトスピーチ対策が、トランプ大統領の発言ひとつで無駄になってしまう。

 公民権監査の報告書を読み込んでいくと、監査人の次のような嘆きが聞こえてくるようだ。「マーク・ザッカーバーグ。あなたは、表現の自由や公民権について、本当に理解しているのですか?」

 一方で、公民権監査を受けてFacebookが是正した問題群もある。それらの取り組みは、他のインターネット企業や、インターネットの利用者にとっても他人事ではない。

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