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単なる“ワーク”と化す? 「ワーケーション」普及が幻想でしかない理由河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)

» 2020年07月31日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

ただの「ワーク」でしかない

 問題は、それだけではありません。これまでも政府は、ホワイトカラー・エグゼンプション、ノマド、フリーランス、ジョブ型、など、「米国産=横文字」の概念を輸入すれば「きっといいことがある!」「生産性が上がる!」という幻想を何度もふりまいてきました。

 しかしながら、あれだけすったもんだの末、導入した「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」は、ふたを開けてみると、適用されたのは法施行から1カ月でたったの1人だったことは、以前の記事(コロナ後の働き方? 「ジョブ型雇用」に潜む“コスト削減”の思惑)で書いた通りです。

 ワーケーションの不毛さを理解する上でもここは大切なので、再掲しますが、適用者がたった1人だった理由は、企業が「過労防止策の実施状況」を報告する義務を嫌ったためだと報じられています。

 つまり、企業側に求めた条件、

  • 「4週4日以上、年104日以上の休日確保」の義務
  • 「労働時間の上限設定」「2週間連続の休日」「勤務間インターバル導入」「臨時の健康診断」から1つ以上の対策を労使間で選ぶ

 という、「労働者の健康を確保するための最低限の基準」さえ守りたくなかった。あるいは、守る自信がなかった。

 現在では、この制度の適用者は414人にまで増えていますが、もともと対象が少ない「高プロ」を導入したのは、ここから広く普及させるためのアリの一穴を狙ったはずなのに、どういうわけか、あれっきり「裁量労働制」という言葉は聞かれなくなってしまいました。

 「労働者の健康を確保する最低限の基準」さえ守る自信がないのに、ワーケーションなど無理。ただの「ワーク」でしかなく、結果的に「国の後押し」の恩恵を受けるのは、「一般社会=大企業、正社員、長期雇用で働く、生活基盤が安定している人たち」だけになってしまうのです。

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