考えてみれば分かるが、税務署が既に“ガラス張り”とも言われている給与所得者をこれ以上に監視してもあまり意味はない。そもそも、そんな苦労をしなくてもガラス張りの庶民からは税率を上げさえすれば徴税が可能なのだ。国が監視の目を強めようとしているのは、非給与所得者であり、彼らに適正に納税してもらえるよう、監視機能を強化していると考える方が妥当だろう。
日本では給与所得者が納税者の大半を占めており、さらに言うと、就業者数約6700万人のうち4500万人ほどが確定申告をしないで、源泉所得税を徴収されるのである。サラリーマンは、「節税」などというテクニックを使う余地もほとんどないので、自分の税金に関して、あまり関心がない人も多い。ただ、現実がどうかは知らないが、「クロヨン」だの「トーゴーサン」(「9:6:4」や「10:5:3」、順に給与所得者、自営業者、農林水産業者の所得把握率の例え)といった言葉があるように、給与所得者以外に関しては、所得の正確な把握はできていないといわれてきた。こうした状況を、マイナンバーとリンクしたキャッシュレス決済のビッグデータが変える可能性があるのだ。
今後キャッシュレスが主たる決済手段となれば、個人資金の流れはビッグデータとして蓄積され、必要とあればさかのぼって確認することも可能になる。全てのキャッシュレス決済データを個人名とひも付けることも理論的には可能である(今回のキャンペーンでは1社のみだが)。こうなると、ルール通りに納税していない人に関しての税務調査は、簡単に検証することが可能になる。租税回避行為はかなりやりづらくなり、所得捕捉のアンバランスは大幅に解消される可能性があるといえるだろう。こうした方向性は、国民の大半を占める源泉所得税を否応なしに取られている給与所得者にとっては、実は歓迎すべき話なのである。
コロナ禍によって、政府はさまざまな公的支援策を打ち出しており、巨額な支出が先行する。コロナ禍終息の後に、このツケは税金となって国民が皆で負担しなければならないのは間違いない。もともと大赤字だった日本の財政がこれだけの大盤振る舞いをすれば、相当な増税を覚悟しなければならないことは、誰の目にも明らかだ。その際、個々の実入りに応じて、公正で応分な負担をしていくためにも、所得把握の正確性の向上は絶対に必要となるだろう。マイナポイントのキャンペーンは、5000円+αがもらえるかどうかという小さな問題ではなく、迫りくる不公平な重税回避のためにも庶民としては積極的に環境づくりに協力した方がよさそうなのである。
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
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