児童虐待防止の最前線をつなぐクラウド――京都府南丹市の取り組みIT活用で変化する自治体の今(2/2 ページ)

» 2020年08月08日 13時00分 公開
[渡辺清美ITmedia]
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他地域にも広がるクラウドサービス

 南丹市の事例を知った陸前高田市や大阪府生野区でも、20年より児童を取り巻く関係機関の情報共有にクラウドサービスが導入されている。陸前高田市では特定妊婦に関する情報共有にも役立てている。

 生野区では区役所の一人親支援員や子ども食堂の運営者らと地域のリソースの共有やFAQに役立てている。

生野区の例

なぜこれまでクラウドシステムの導入が進まなかったのか?

 1つ目には南丹市のように予算の問題があげられる。これに対し、厚労省は19年度より「虐待防止のための情報共有システム構築事業【新規】」として、市町村の関係部署や児童相談所等の関係機関間のより効率的な情報共有を進めるため、ICTを活用したシステム整備に要する費用を補助する政策を始めており、この点は解消されてきている。

 2つ目にはインターネットを利用したクラウドサービスを使っていいのだろうかという不安だ。この点については、18年6月に「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」における方針として「クラウド・バイ・デフォルト原則」が発表されている。政府が情報システムの構築を行う際に、クラウドの活用を第一として考えるという方針で、クラウド化に抵抗がある現状を打破するために提唱された。

 南丹市はこの直後からクラウドサービスを検討し、19年に本格的に導入、多機関連携の向上に成果を出し各地の自治体に知られるようになった。先駆的に利用した事例らパブリッククラウドの利用は広がりつつある。

 20年に全世界を襲ったコロナウイルスの対策のため神奈川県、大阪府、埼玉県、厚労省でも南丹市と同様のクラウドサービスは情報共有のプラットフォームとして取り入れられ、役所や医療機関、保健所との連携に役立てられている。

神奈川県の新型コロナウイルス感染症対策本部で用いたクラウドサービスの画面

 神奈川県では、県内病院や帰国者・接触者相談センターからの情報をタイムリーにまとめることで生産性を高めることができた。リモートワーク中の職員とも作業分担をしながら進められたという。課題意識をもった現場がすぐに構築でき迅速な連携を可能とするクラウドサービスは、今後、多様なチームを支える基盤としてますます力を発揮していくだろう。

著者プロフィール・渡辺清美

サイボウズ株式会社 社長室。PR会社を経て2001年サイボウズに入社。マーケティング、インフォメーショセンター、広報IR、ブランディング、NPOプログラムを担当。社長室では主に非営利団体や公共機関との協働、IT活用支援、虐待防止プロジェクトに取り組んでいる。子どもの声からはじめようプロジェクト、子どもセーフティラボ、選択的夫婦別姓訴訟を応援する会など多様なメンバーとコミュニティー運営をしている。


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