API提供でネット証券もコモディティ化 オンラインの陣取り合戦が始まる(2/2 ページ)

» 2020年08月14日 07時20分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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証券業の2つの生き残り策

 それではなぜカブコムは、自社のビジネスをコモディティ化するようなAPI提供に踏み切るのか。それは売買手数料無料化の流れの中にあって、証券業者が利益を上げ続ける道は大きく2つしかないからだ。大原氏は生き残り策として、投資アドバイス領域とプラットフォーム提供の2つを挙げる。

To Cはユーザーへのサービス提供、To Bは金融サービス事業者へのプラットフォーム提供を指す。ブローカレッジ(売買手数料)、アセットマネジメント(運用手数料)の利潤が消失する流れの中、アドバイス提供やプラットフォーム提供に移行できるかがカギを握る(日本資産運用基盤グループの資料より)

 「現在、証券各社は対面アドバイザーチャネルの陣取り合戦をしている」と大原氏。野村證券は、山陰合同銀行(松江市)や阿波銀行(徳島市)と包括提携し、SBIホールディングスは「第4のメガバンク構想」を掲げ、島根銀行など4行との資本業務提携を発表している。近い将来、売買手数料や運用報酬で利益が上げられなくなるのを見越して、残る収益源である対面アドバイスの足場を固めようとしている。

 もう1つが、カブコムのように金融領域に新規参入しようとする事業者に対して、プラットフォームを提供する動きだ。すでに証券会社のスマートプラスは、証券サービスプラットフォームをクレディセゾンに提供しており、同社は証券システムのコストを10〜20%まで圧縮でき、6カ月の開発期間でサービスを提供できるとしている(記事参照)。

 SBIホールディングスは3カ年でグループ内の証券会社の手数料を完全無料化すると発表済み。これを受けて、ネット証券各社も手数料無料化を踏まえた策を検討中だ(記事参照)。また、資産運用に対する手数料である信託報酬も縮小が進む。

 昨今日本でも存在感を増すインデックス投信では継続的に信託報酬が下がってきている。三菱UFJ国際投信のeMAXIS Slimシリーズは「業界最低水準の運用コストを目指す」としており、3月に先進国株式インデックスファンドの信託報酬率を0.0965%から0.0930%に引き下げた。また、いくつかの制約はあるものの、野村アセットマネジメントは信託報酬をゼロ、農林中金は信託報酬を成功報酬とするファンドの提供を始めている(記事参照)。

 売買手数料や資産運用手数料の落ち込みの動きはすでに始まっている。足元の収益を見ながら、長期的な利潤の減少に対応していかなくてはいけない証券業界。そこに異業種が参入することで、業界の構図は激変する可能性がある。

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