クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

レヴォーグで提示されたスバルの未来池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年08月24日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

新型レヴォーグ検分

 そして新型レヴォーグである。走り出して感じたのは、クルマを運転するメソッドそのものが別物になっていたことだ。曲がるための予備動作や、補正の準備が全部いらない。荷重を前に乗せてタイヤの横方向グリップの増加を感じ取りながら、クルマがしでかす不始末を人間が処理すべく備える準備が、大なり小なりこれまでは必要だった。それは不要になってみるととてもはっきりする。

ハンドリングテストコースにて、ダブルレーンチェンジテスト中の車両姿勢

 重さに対する備えがいらない。あらゆる速度域と入力に対してロール速度がコントロールされている。車両重量は未発表だが、それはおそらく驚くほどは変わっていないだろう。操作に対する応答遅れに重さが加わると、さまざまな操作のオーバーシュートと揺れ戻しが起こりがちなので、ドライバーにとって大きなプレッシャーとなって返ってくる。逆にいえば、レスポンスが向上すると、操作に対する「恐れ」が減る。

 思い起こして欲しい。昔からある、ひねるタイプの蛇口から水が出るのは何のストレスもないが、センサー式の蛇口に手をかざした時のあの不安な気持ち。一気にジャーッと出るかもしれないし、いくら手をかざしても出ないかもしれない。あるいは流量的にちょろちょろかもしれない。そういうレスポンスのタイミングと量が分かりにくい機構に、人は本能的にストレスを感じ身構える。

 新しいレヴォーグは、操作に対するレスポンスがタイミング的にも量的にもしっかりコントロールされている。そこに揺らぎない安心感がある。サスペンションのロール速度制御は、硬くして動かさないことで達成されているのではなく、動かしながら急変させないという美しい身ごなしであり、とてもロータス的ハンドリングであるといえた。申し添えておけば最上級の褒め言葉である。

 曲がることはもちろんだが、それはブレーキにも現れている。減速時に姿勢が前掛かりにならない。むしろイメージとしては四輪が沈み込むように減速姿勢を取る。これはアダプティブダンパーの功である。フロントのダイブ(沈み込み)とリヤのスクォート(浮き上がり)を抑制していることが直接の理由だが、それが可能になっているのは、ガッチリと組み上げられたシャシーの剛性が、サスペンション各部の取り付け点を微動だにさせないからだ。

各部の剛性の欠如で、操作からの反応は遅れる。スバルの実測値で0.45秒。そのうち65%はステアリングからタイヤまでの間で発生している

 アダプティブダンパーで荷重の移動を制限しようと思ってもシャシーのよじれで四輪の接地圧が揺らいでしまえば、さしもの電制も十分に能力を発揮できない。硬いシャシーは他の部分の能力も底上げするのだ。

 これによって、荷重が必要以上にフロントに移動しないので、リヤタイヤの接地圧が従来より高いレベルに保たれており、ブレーキ時にリヤタイヤのグリップが積極的に使える。安心感がありフィールが良いだけではなく、制動距離そのものも短縮されているはずである。

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