プロ野球・横浜DeNAベイスターズの初代球団社長で、バスケットボール男子B3リーグ・さいたまブロンコスのオーナー兼取締役、一般社団法人さいたまスポーツコミッションの会長を務める池田純氏が、スポーツビジネスの最前線に迫る連載「Bizスポーツ」。第6回では新型コロナウイルス感染拡大の収束が見通せない、厳しい時代を生き抜くためのスポーツビジネスの在り方を「コロナ回帰率」をテーマに探る。
プロ野球やJリーグで、5000人を上限とした有観客試合が7月に始まりました。一方で、東京をはじめ全国で新型コロナウイルスの新規感染者が再び増加し、厳しい環境が予想より早く訪れています。そんな現状で気になっているのが、多くの試合で上限の動員数になっているプロ野球に対して、Jリーグでは観客が想定より入っていない点です。観客を入れた最初の試合となったJ2岡山-北九州(シティライトスタジアム=岡山県総合グラウンド陸上競技場)の観衆は上限に程遠い2294人でした。数カ月ぶりに観戦できる試合という“プレミアム”がついて、この数字。今後の厳しい状況が浮き彫りになったといえるでしょう。
民間企業が赤字経営を問題視するのは当たり前のことです。しかし、いざこれがスポーツになると「公益性」「公器」「ファンのため」などというワードを持ち出され、当たり前ではなくなる。特にコロナ禍に見舞われている中で「赤字に耐えてでも開催を続けるべきだ」「今年は特別だから頑張ってやることに意味がある」という根性論のようなものを良しとする風潮があるように感じます。
「赤字でも、やらなくてはいけないのか?」「赤字なら、やりたくない!」――そういった経営の本質を突く発言や、「赤字」という言葉を口に出してそれを忌み嫌うのが経営の前提であるはず。それなのに経営の危機の実態や根本的対策を論じること自体が、多数の球団・クラブでリーグという構造が成り立っている世界の和を乱すものであるかのような空気がある。そこに、私は危機感を強く感じています。
そもそも、私はいかなる理由があろうと赤字を垂れ流し続けるスポーツの運営には否定的です。“親会社主義”が日本のスポーツビジネスの本質的発展を妨げていると考える者として、ベイスターズをはじめ、せっかくプロ野球から広がってきた「親会社から独立したスポーツビジネス」の論理が、新型コロナウイルスの影響で元に戻ることを非常に危惧しています。
同じ興行の世界でいえば、著名アーティストがライブ配信に乗り出すなど、新しいビジネスの形に挑戦することで“経済活動”を再開しています。コロナ禍以前に「CD販売→デジタル配信」のシフトがあったように、ライブ興行も以前の満員時ほどではないにしろ、デジタル配信に新たな収益が見込める道を進み始めている。しかし、スポーツはまだ、そうした新たなデジタルにシフトした“代替収益源”を見つけられず、開催すればするほど赤字になる状態から抜け出せていません。確かに、スポーツをやめることによる「マイナスPR」を考えれば、親会社が大きいチームにとって10〜20億円ほどの赤字は我慢に足る額です。プロ野球は現在の状況でも、しばらくは成り立つでしょう。
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